母が

「家に帰りたい」

と言っている。


「もう帰ってもいいやろ?」

「帰るわ。帰らして。」

「ねえ。 帰らして。」



何て答えたらいいのか考えた。


「今日は車がないから帰れんわ…

明日まで待って。明日ね。」


と言ってみた。

多分明日になれば忘れるだろう。



母は私を睨み付け、不満そうにしている。



しばらくすると、また

「ねえ、帰ってもいいやろ?」



はあ。




「施設に入っている人はみんな

本当は自宅に帰りたいのです…」

と言っていらっしゃる専門家の方がおられますが


自宅にいても、自宅に帰りたいと言うんです。


在宅介護が無理で、やむを得ず施設に入れている介護者の方は

面会に行った際に「帰りたい」なんて言われたら

ご自分を責めるかもしれません。

罪悪感を抱くかもしれません。


だけどそれは要らぬ心配です。


たとえ自宅にいても、帰りたいと言うのです。


きっと、元気な若い頃の

思い出の中にある家に帰りたいと思っているんでしょうから

その家は実在しない家なのです。



帰りたい、帰りたいと言うからと

本当に自宅に帰らせても、

ご本人は思っていた家と違うから困惑するかもしれません。

そうなると余計かわいそうですね…



一番楽しかった、一番幸せだった時の

落ち着くことのできる我が家。



私でさえ、夢で見る時の自宅は

今住んでいる家ではありません。


小学生から20代まで住んでいた家が

夢の中では今でも自宅として出てきます。


多分私がボケたら、その家に「帰りたい」と言うんだろうなぁと


その前に、ボケたら安楽死させてほしいなと思います。