2月25日、「モーニングCROSS」内「オピニオンCROSS」コーナーで

「生活保護の引き下げ処分、違法判決」をテーマにお話しました。コメントを以下にupします。

(内容は一部、再編集を加えています)

 

●どんなニュースだったのか?

 生活保護の支給額が平成25年から段階的に引き下げられたことについて、

大阪府内の受給者42人が「最低限度の生活を保障した憲法に違反する」と訴えた裁判で、

大阪司法裁判所は 「引き下げは裁量権の逸脱や乱用があり、生活保護法の規定に反し違法」として、

生活保護費の減額を取り消す判決を言い渡しました。

生活保護の生活費部分の支給額について、国は物価の下落などを理由に平成25年から27年にかけて最大で10%引き下げていました。

出典元→東京新聞(2月22日)

 

●コメント

   「生活保護」の内実について、この機会に皆さんと一緒に勉強できたらと思います。
 まずはじめに確認したいのは、今回の判決は「違憲」判断ではないということ。
 人権は大きく「自由権」「社会権」「参政権」「国務請求権」の4つに分かれます。
 憲法25条では「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めていますが、これは「社会権」の一つ。

 

 国に対して「きちんとやってください」と求めることができる権利、法的用語としては「作為請求権」と呼ばれており、

 国の介入の排除を目的とした「自由権」とは別のものと理解されています。

 一方で、何を求めるのか内容に関して具体的な定めがあるわけではありません。

 

 過去の最高裁判決で有名なものに「堀木訴訟」があります。障害福祉年金を受給していた視力障害者の女性が離婚後に児童扶養手当を請求したところ当時の知事から退けられ、処分を不服として提訴したという裁判です。

 第一審の神戸地方裁判所は憲法違反を認め原告が勝訴しましたが、控訴審の大阪高等裁判所では、

 憲法第25条の規定は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障したものではなく、「時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の条件等との相関関係において判断・決定されるもの」と判断され、原告は敗訴扱いとなりました。

 上告審の最高裁判所でも、控訴審の判決が支持され、原告の敗訴が確定しています。

 

 もう1つ有名な判例が、「朝日訴訟」。岡山の療養所で生活していた結核患者が、生活保護の増額を求めて

 政府を相手に起こした訴訟です。最高裁裁判官は補足意見で憲法25条1項について「時の政府の政策方針によって左右されることのない、客観的な最低限度の生活水準なるものを想定して、国にその責任を課したもの」と述べています

(この意見は、「最低限度の生活」とは政権の担い手に左右されることなく、客観的に定められる可能性を示唆しているとも解釈できます)。

 

 このような流れも踏まえれば、今回の判例はきわめて画期的な内容と言えるでしょう。

 

 

 2012年には、お笑い芸人の母親が生活保護を不正受給していたとされたことを発端に、強烈な生活保護バッシングが巻き起こりました。

 

 同種の訴訟は全国で起こっていますが、1件目となる名古屋地裁の判決では国民感情や国の財政状況を踏まえて、原告の請求を棄却しています。ですので、内容としては大阪の判決と逆でした。

 

 

 では、不正受給の実態はどうか。平成27年度の生活保護負担金は3兆6977億円で、うち不正受給額は169億9408万円。金額ベースでいうと、わずか0.45%です。

 一件あたりの不正受給金額は、38万7000円です。「不正受給」と聞いて、生活に余裕があるにも関わらず不正に多額の保護費を受給したというイメージを持つ方がいらっしゃるかもしれませんが、データを見ると実態は必ずしもそうとは言えないのです。

 

 今回、生活保護基準の引き下げが「違法」と判断された背景についても同様のことが言えます。

 厚生労働省は当初、引き下げの背景に関して「物価の下落を考慮した」との見解を示していました。その根拠として用いられたのが、「生活扶助相当消費者物価指数」という独自の指数です。この数字を用いると、消費者物価指数では「-2.35%」と示される変化率が「-4.78%」となる。あえてマイナス幅が大きくなるような指数を用いており、専門的知見にもとづいているとは言い難いと判断されたのです。

 

 そもそも、生活保護の引き下げにあたって国は、テレビやパソコンといった物価下落が起きやすいものに関して影響が出やすい指数を作り出した。これは、その上で、「4.78%の物価下落が起きているから保護基準を下げる」というロジックを用いました。
 このようなやり方は通常の消費者物価指数とは異なるもので、統計についての専門家の考え方とずれている。国に与えられた保護費を決定する裁量を逸脱したということで、違法と判断されました。
 物価指数を恣意的に作ったことは最初から明らかで、自民党の平成24年の衆議院選挙での公約「保護費を10%引き下げる」に合わせるためのものと見る向きもあります。

 こういった「(恣意的な)数字の操作」に違法判断が下されるまで8年かかりました。
 これだけ時間がかかったのは、結局、私たちの社会が生活保護制度で起きていることを見ようとしなかったからだと思います。

 

 今回のように、統計が実情を反映しておらず恣意的なものとなっていて、その統計に基づいて不利益処分がなされた場合にそれをただしていくことが、本来の司法の役割です。

 そのためにもまずは生活保護の受給をめぐってどのようなことが起こっているのか、実態が広く知られる必要性があると思っています。

 

【構成=松岡瑛理

 

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弁護士の三輪記子(ミワフサコ)です。