8月20日、「モーニングCROSS」内「オピニオンCROSS」コーナーで

「黒い雨訴訟」をテーマにお話しました。コメントを以下にupします。

(内容は一部、再編集を加えています)

 

●どんなニュースだったか?

原爆投下直後、放射性物質を含む雨を浴びたのに、国の援護対象区域外に住んでいたことを理由に

被爆者手帳の交付を却下されたのは違法だとして、住民らが処分取り消しなどを求めた「黒い雨」訴訟。

原告84人全員を「被爆者」と認めた広島地裁判決について、

国・広島県・広島市は、今月12日、広島高裁に控訴しました。

 

●コメント 

まずは、訴訟が起こった経緯からお話します。

 

被爆者とは何かを定めた「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」という法があります。

同法第1条では「被爆者」の定義が定められていて、こちらに該当すると認められると、

被爆者健康手帳が交付されたり、健康管理手当や医療特別手当などが受けられます。

 

原告らははじめ、広島市や広島県に対して「被爆者健康手帳の交付をお願いします」と申請をしていました。

ところが、原告が「黒い雨」を経験した場所が国が定めた援護区域の外であったことから

行政側は「あなたたちは被爆者に当たらない」「被爆者健康保険手帳は交付しません」と

却下処分を下していました。それで原告らが2015年11月、広島地裁に提訴したんです。

 

裁判では、原告らが「被爆者に当たるかどうか」が主要争点となっていました。

2020年7月29日に下された広島地裁の判決は、

原告全員が「黒い雨」を経験したと認められること、「黒い雨」のために健康被害が生じていると認められることから被爆者に該当すると認め、

広島県と広島市に対して被爆者健康手帳の交付を命じるものでした。

 

原告たちは、立法にも行政にも救われず、

最後に「人権保障の最後の砦」と言われる司法救済を求めました。

司法(裁判所)も、法律を解釈し、きちんと審理をした上で原告らの請求を認めています。

それにもかかわらず今回控訴に踏み切った理由について、

加藤厚生労働大臣は判決内容が「十分な科学的知見に基づいたとは言えない」と述べています。

しかし、そうなるとそもそも科学とは何か、

これまで長きにわたり行われてきた調査は「科学」ではなかったのか、という話になります。

国が「科学的知見」と呼ぶものの中には、被爆者援護法の制定過程時に問題とならなかったことや、

立法趣旨からは外れるようなものまで含まれていて、言わば「科学の後出しジャンケン」のような様相を呈しています。

 

根本的に考えなくてはいけないのは「被爆者救済とは何か」ということです。

原爆が投下されてから、本件訴訟提起まで実に70年かかっていることになります。

そして、今回の判決が出るまでの間、原告団のうち16人は亡くなりました。

原爆投下は1945年ですから、そこを起点にしても、相当な時間が経っています。

大規模調査は行政が担う他ありませんが、

「黒い雨」の実態調査が始まるのが遅かったため、

申請にも提訴にも時間がかかってしまったのです。

立法・行政・司法という三権分立システムで、「立法」とは、

国会が法律を制定する作用のことです。今回の根拠法となった法律も、国会が定めたものです。

そして、国会議員は私たちが選んでいるのです。

それは裏を返せば、(それが間接的であったとしても)

私たちが声をあげる権利が保証されているということでもあります。

 

一人ひとりがこの問題に関心を持って声をあげれば、

法律を変えること、国会を動かすことができる。

被爆者の人達をもっと早期に救済できる可能性があったのではないでしょうか。

 

原告の方々が訴訟提起し、長い審理、控訴を待たずに救済される可能性があったことを思うと胸が痛みます。

 

三審制ですから、被告となった行政側に控訴する権利があるとはいえ、

一審判決を重く受け止めて控訴しないという政治決断をしていれば、

原告たちは今救済されたわけです。

 

原告の方々も高齢となりました。

救済されるのはいつなのでしょうか。

 

最後に、私がなぜこのニュースに興味を持ったのかをお話します。

私は京都育ちですが、広島県福山市に祖父母の実家があります。

毎年夏になると祖父の家でテレビを見て過ごしました。

8月になると、テレビではずっと原爆の話をしているんですね。

福山市は広島県と言っても岡山寄りで、京都に住む私からすると「けっこう他人事なんだな…」と感じていて、

それがとても怖かった記憶があります。

広島県福山市の人でさえこうなんだから、国内で他の地域に住んでいる人達にとって、

原爆はさらに遠い出来事のように感じられるかもしれない、それがとても怖いことに思えていたのです。

(でも今は、「他人事」のように捉えるしかできなかった、甚大な衝撃があったということも理解できるようになりました。)

 

今、私は同じ日本に残された者の責任として、「自分に何ができるか」を真剣に考えないといけない、と

感じるようになりました。

世の中に起こっているすべての出来事を「他人事」と捉えてしまうと、

人と人は互いに影響を与え合うこともできなくなってしまう。

社会に生きて他人とかかわるとはどういうことなのか。そこから考え直してみるのもいいと思います。

 

【構成=松岡瑛理】

 

 ▼関連URL

・「『黒い雨』訴訟を支援する会」(裁判の経過などが詳しく記載されています)

 

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弁護士の三輪記子(ミワフサコ)です。
2010年12月の弁護士登録以降2017年秋までは京都で執務していましたが、

2017年秋に同期の塩見直子弁護士と『東京ファミリア法律事務所』を開設しました。

お陰様で弁護士10年目、東京ファミリア法律事務所開設から3年目を迎えました。


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