2月21日、「モーニングCROSS」に出演しました。
以下は「オピニオンCROSS」コーナー内での、槙原敬之さん逮捕報道に関するコメントです。
(内容は一部、再編集を加えています)
●どんなニュースだったのか?
歌手の槙原敬之さんが、覚せい剤取締法違反などの疑いで13日、警視庁に逮捕されました。槙原さんは1999年にも覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕され、懲役1年6か月、執行猶予3年の判決を受けています。ネット上では「覚せい剤を断つのはムリなのね」「薬物が怖いものだと分かった」「刑罰をもっと厳しくすべき」などのコメントが並んでいます。
●番組でのコメント
今回の事件報道で、注目したいポイントは以下の2点です。
☑「無罪の推定」原則が忘れられていませんか?
☑その情報、どこから?
一つ目、「『無罪の推定』原則が忘れられていませんか?」。
はじめに確認したいのは、「逮捕される人のすべてが有罪とは限らない」ということ。
警察は市民を逮捕し、身体を拘束することができるという権力を持っています。この権限が間違った方向に使われると、
「何もやった覚えがないのに、ある日突然、逮捕された」という人も出てきてしまいます。
無実の人がいたずらに処罰されるというのは、本来あってはならないことですよね。そのため、刑事上の罪に問われる人はすべて、
法律にもとづいて有罪とされるまでは「無罪」と推定される権利を持っています。この原則は、「無罪推定」と呼ばれます。
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」という条約の14条2項に明記されていて、日本も批准しています。
刑事裁判に関心のある方なら、「疑わしきは被告人の利益に」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
「無罪推定の原則」を受けて、刑事裁判では、検察官が被告人の犯罪を証明できないと、有罪扱いにはできません。
法廷に提出された証拠だけで、犯罪事実が確定できないときは、被告人に有利な方向で判断、つまり無罪としなければいけません。
これが刑事裁判の鉄則です。
この原則がなければ、無実の人が簡単に処罰されてしまうことになりかねないのです。
また、そもそも「逮捕」は起訴前の身体拘束であり、起訴されるかどうかすら未定の段階なのです。そして「逮捕≠処罰」です。
これは、2つ目の注目点「その情報、どこから?」につながります。
逮捕されることと、刑事上の罪に問われることは、決してイコールではありません。
逮捕は処罰ではありません。逮捕されたからといって必ず処罰されるということではないのです。
でも、今の国内報道を見ていると、無罪の可能性を秘めた人も、有罪かのように扱われる傾向があると感じます。
例えば日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が逮捕・起訴された時には、
法相が「潔白というのなら司法の場で無罪を証明すべきだ」と話しました。
この発言に対して、「無罪推定」の原則が忘れられているのではないかと批判が起こりました。
冒頭で紹介されたネット上でのコメントに、「刑罰をもっと厳しくすべき」というものがありました。
槇原さんのように、逮捕歴のある人に対しては「一度逮捕された人はいくら罰してもいい」という声が出てきやすい。
けれどそもそも、「メディアが出している情報は、誰が発したものなんだろうか?」という視点を持って欲しい。
独立した報道のように見えても、元を辿ると警察が情報源であることも多い。内容が、100パーセント真実とも限りません。
「メディア・リテラシー」という言葉もあるように、まずは情報源を見極める力を自分なりに考えるという習慣をつけていただきたい。
国外に目を向けると薬物使用に厳罰を与えるのではなく、「非犯罪化」そして
治療の対象とするという見方が主流となりつつあります。
従来の司法手続きでは、犯した罪に対してどれだけ罰を与えるかを問うことだけに主眼が置かれていました。
けれども、罪を重くしたところで、再犯を防ぐことはできない。それは、そもそも被告人が薬物を使用した
原因そのものへのアプローチが弱いからではないか。
そのような反省から、犯罪に手を染めた人が抱える問題の原因を探り、再犯防止につなげていこうと、
出てきた見方です。
一般的に、一度薬物を使用すると依存症になるというイメージがあります。
しかし、そもそも薬物を使用した全ての人が依存症になるわけではありません。
そして、依存症になったとしても、これは再発を繰り返しながら治っていくというプロセスを辿ります。たとえ依存症になっても、回復はできるんです。
「とにかく罰を」という声が出てきてしまう背景には、こうした実態が知られていないことも関わっているのかな、と思います。
(「厳罰主義」を主張する方も「薬物を使用させたくない」「再犯を防ぎたい」という気持ちがあるのだと思います。
そのための手段が「厳罰」以外にあること、そして厳罰以外の方法こそが科学的であり、合理性があることをご存知ないのだと思います。)
犯罪報道がなされていても、無罪推定の原則を働かせて冷静に事態を見守る。
たとえ薬物を使用していたとしても、その方が回復できるように、社会全体で見守る。
薬物報道に接する上では、こうした視点も大切にしてほしいですね。
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弁護士の三輪記子(ミワフサコ)です。
2010年12月の弁護士登録以降2017年秋までは京都で執務していましたが、
2017年秋に同期の塩見直子弁護士と『東京ファミリア法律事務所』を開設しました。
お陰様で弁護士10年目、東京ファミリア法律事務所開設から3年目を迎えました。
東京ファミリア法律事務所は女性弁護士2名の法律事務所です。
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