「シンシア?いるのか?」

 王宮の図書室の扉を開けて、中を覗きながらベルンハルトは声をかけた。

 王宮の図書室とあって、なかなか広い。

 コツン、コツン、コツン

 ベルンハルトの靴音が響きわたる。

「シンシア?いないのか?」 

 本棚の間を一つ一つ確認しながらベルンハルトは歩いて行った。

 すると、視線の先に、椅子に座って本に集中している少女の姿が映った。
 
 呼び掛けにも気づかないくらい熱中しているのか。

 ふっと笑うとベルンハルトは少女に近づいていった。

「シア」

「あ、ハルト!」 

「ずいぶん熱心に読んでいるみたいだな。呼んだんだけど聞こえないくらい集中していた」

「あ、うん。光族についての古書を読んでいたの。ちょっと夢見と関連がありそうで読んでいたの」

 パタンと本を閉じるとシンシアは言った。


「ハルト、光の森に行こう!」

「光の森に?」

「あそこなら、誰にも邪魔されずに自由にいられるわ」


*****



「ここは、本当に不思議な空間だ」

 草原に寝転がりながらベルンハルトは言った。

 夜がなく、何時でも太陽(のようなもの)が頂点にあって、自然が豊かで動植物が共存している人工の楽園『光の森』 

 今は見ることのない不思議な動物や植物たちが沢山生活をしている。


今は絶滅してしまった動植物の種の保存も兼ねているのだ。


「ここは、光の想いしかない森だから。争いのない平和な空間をと、そういう想いで作られた森。だから入れる人を森自ら選ぶ」

 ベルンハルトの傍らに座ってシンシアが言う。

「光の血脈者と森を悪用しようという悪しき思いを持たぬ者しか入れない」

 ベルンハルトが続けて言う。

 光の森は、王宮の中庭にある東屋が入り口となっている異空間に造られた森である。
  
 一見、普通のなんの変哲もない東屋だが、光の血脈者が光の森の気の周波数に意識を合わせると、森への入り口が開かれる。

 大昔、人族と四氏族が袂を分かちあった時、人族側に残った光族が故郷に似た空間を造り上げたのが光の森だと言われている。

 森の意にそぐわない者が入ろうとすると、その者に稲妻が落ちるとか落ちないとか、まことしやかに言い伝えられている。



「ずっと、こうしていたいと思ってしまう」  


 シンシアもベルンハルトのわきにゴロンと横になって、ベルンハルトの手を握った。

「私も、ずうっとこうしていたい」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 ポカポカ陽気に心地よい風。

 そのうち、二人は、ウトウトと眠ってしまった。