先週から続いたTNFC 2019についてのブログも、今回で最後です。
最初は準決勝と決勝の2回で終わる予定でしたが、倍もかかってしまいました。
ここまで読んでくださっている方々、ありがとうございます。最後までお付き合いください。
では、さっさと本題に入ります。
THE NORTH FACE CUP 2019 Division 1 決勝のスタートです。



先週から続いたTNFC 2019についてのブログも、今回で最後です。
最初は準決勝と決勝の2回で終わる予定でしたが、倍もかかってしまいました。
ここまで読んでくださっている方々、ありがとうございます。最後までお付き合いください。
では、さっさと本題に入ります。
THE NORTH FACE CUP 2019 Division 1 決勝のスタートです。


6人の選手が壁の前に現れ、名前を呼ばれると、すっと片手をあげて観客にアピールしていきます。最後に呼ばれた井上祐二選手は勢いよく両手をあげて、屈託のない笑顔で声援に応えます。すると井上選手のお茶目な動きに、観客や選手も笑顔がこぼれました。

そんな井上選手から第1ラウンドが始まります。
1課題目は大きなハリボテ(多くは木でできている、壁から張り出すようなホールド)がいくつも並んだ、インパクトのある課題。見た目のシンプルさとは裏腹に、どう登るかぱっと見では分かりづらいです。

井上選手の1トライ目。

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1手目の一際大きなハリボテを両手で下から抱え込むようにして持ちます。しかしその体勢をキープするだけでもつらそうで、次の1手を出せるようには見えません。それでもなんとか右手を出しますが、重力に耐えきれずフォール。

落ちた後すぐに、スタート位置から、そして正面から1手目と2手目のハリボテを見て次にどう動くかを確認します。1トライ目でした動きでは登れる可能性がないと感じたら、他に手がないか考えなければいけません。

井上選手は、スタートから右手と左手を同時に出してそれぞれ1手目と2手目を取るという選択をしました。

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今度は一瞬止まる気配をみせます。
井上選手も、このムーブで登れそうだと思ったのでしょう。そこからは動きの精度を上げるために何度も同じムーブでトライします。
左手の取る位置を変えるなどして、なんとかこの1手を止めようと手を尽くしますが、2手目をとらえきれないままタイムアップしてしまいました。


続いては準決勝の最後のトライで完登し、ギリギリで決勝進出を決めた楢崎智亜選手。
1トライ目、井上選手の時と同じように1手目を両手で抱えます。
そして同じように落ち、同じようにすぐに違うムーブを見つけ、飛び出します。
かなり惜しい動きでフォール。これでコツをつかんだのか、次のトライで軽やかに2つのハリボテをつかんで止めます。

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2人の選手、全く同じ動きで飛び出しているように見えますが、飛び出した先のホールドをつかむまでの体の軌道に差があり、それが成功と失敗の分かれ道となっています。

井上選手は体を横に振って勢いをつけた後、垂らした左腕を下から左上へと弧を描くように振りながらホールドを取りに行きます。それに合わせて上体も左へ引っ張られて、手がホールドに到達したときには体が少し横に傾いた状態になります。
体は左に出てきているのに足は右に残ったままになってしまうため、足を左のホールドに移すまでの移動時間に耐えられず落下してしまいます。

一方楢崎選手は、体を横ではなく下に少し沈ませてから一直線に飛び出しホールドをつかみます。すると手でホールドをとらえたときには足が体の真下にあり、降られも最小限に抑えられ、短い時間で左足を置くことができます。よく見ると、楢崎選手は飛び出す瞬間、左腕を一度体の方に力強く寄せているのがわかると思います。これも、真上に飛び出すための助けになっています。

さて、2手目を止めた楢崎選手は次の左上に位置するハリボテを取ろうとします。何度目かのトライでなんとか左手でとらえますが、体をあげきれず落ちてしまいます。

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3人目は当日、20歳の誕生日を迎えた原田海選手。
原田選手は、唯一最初から正解ムーブで登り始めた選手です。オブザベーションの段階では、誰も飛び出す動きを想定してるようには見えませんでしたが、出番を待っている間に思い至ったのか登り始めてその場で感じ取ったのか、正しい動きでトライを続けます。

しかしなかなか止めきれず、井上選手と同じ高度でクライミングタイムが終了します。


続いて韓国の招待選手、チョン・ジョンウォン選手が登場します。
ワールドカップでの優勝経験も何度もある、有名選手です。

原田選手とは逆に、最後まで正解ムーブにたどり着けず、高度を伸ばすことができませんでした。

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ホールドを下から持つときには、足を高い位置にして体を上げていかないと次の動きに繋げられないのですが、この課題は体を上げていける位置に足がありません。両手で1手目を下から抱えるように持ったとき、手は肩の辺りに来て、体が伸びてしまい、そこから動いていけなくなってしまいます。

そのため、これまでの選手は落ちながら手を出すのがやっとで、次のホールドをつかめる可能性を感じることができず、新たな動きを探す運びになっていましたが、チョン選手は身長が高く、1手目を両手で持ったとき、他の選手よりも体が上がった状態になります。
チョン選手の強靱なパワーも加わって、次のホールドをとれそうな惜しいトライをします。選手自身も可能性を感じてこの動きでなんとか登ろうと何度も挑戦します。

強いが故に、ほかの選手はすぐに諦めてしまうムーブから抜け出せなくなってしまうのです。
もしチョン選手のあのパワーで正解ムーブを選択していたら...と考えてしまいますね。

結局高度は井上選手、原田選手と同じところで終了です。


笑顔を浮かべて登場したのは緒方良行選手。
まずは1手目を両手で抱えます。このムーブでは登れないと判断すると、次のトライで飛びつくように1手目と2手目を同時にキャッチして止めます。
観客からは今までため込んだ力を爆発させるように、途切れることなく歓声が沸き上がります。

勢いに乗って、一瞬で楢崎選手の高度まで来ると、肘をしっかり固定して足が離れたときの振られに耐えて楢崎選手を超えます。

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このまま完登かという勢いで駆け上がりますが、最後の距離のある1手が止められず落ちてしまいます。
それでも、力強い登りでトップに躍り出ました。

緒方選手は最初の飛び出しの際、両手で体を引き上げることで体の軌道をまっすぐ上に調整していました。

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ほかの選手は体を振ることでできる遠心力を利用して体を上げていましたが、緒方選手のフィジカルを持ってすれば握って引けばできるということでしょう。
1度で決める、勘の良さも素晴らしいです。


第1ラウンド最後の選手、藤井快選手もやはり1トライ目は1手目を両手で持つ動きを選択します。しかしすぐに飛びつくムーブに切り替えトライを続けます。

止まりそうな気配を何度も見せますが、耐えきれずに落ちてしまいます。
藤井選手も身長が高い選手です。飛び出して距離を出すような課題では有利に見えますが、この課題は取り先の2つのホールドの間隔が近く、力を入れづらくしてあるため、リーチの長い藤井選手はより力を発揮できなくなります。

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体の位置などは正確で、止められる体勢に持ってこれているのに、ホールドを持った瞬間うまく力を伝えられず滑り落ちてしまいます。

最後のトライで一瞬耐えますが、惜しくも止めることができず高度は伸びません。

井上選手、原田選手、チョン選手、藤井選手と高度が並び、準決勝の順位が上だったチョン選手と藤井選手が上位扱いとなり、緒方選手と楢崎選手に加えて2人が次のラウンドに駒を進めます。


第2ラウンドは全員が同じ、4+という高度でした。これは4手目のホールドから次のホールドへ手を出したということです。
高度が同じ場合、そこに至るまでのトライ数で順位を決めますが、今回の最終結果が、私には疑問の残るものでした。このブログを読んだ方で、答えを出してくださる方がいらっしゃればぜひ教えていただきたいです。

まず1人目の楢崎選手。1トライ目でゴールに手が届くかというところまで登りました。

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ゴールの手前の大きな半月状のホールドには、下の面の左右に2つのホールドがついています。
楢崎選手は半月の前のホールドから左手で半月ホールドの左寄りについたホールドを取ると、足を上げてそのままゴールに手を伸ばして落下しました。
その次のトライでは、同じように左手で半月左のホールドを持った後、右手で半月の右寄りについたホールドを保持したところで足が滑ってフォールします。
3回目のトライで、同じところまで来ると今度は足をしっかりホールドに乗せ、ゴールに手を伸ばして落ちました。

楢崎選手の最終結果は4+に行くまでに3回かかったというものでした。
ということは半月の左についたホールドが高度3で、右についたホールドが高度4ということだと推測できます。

続くチョン選手と緒方選手は2人とも1トライ目で半月左をつかみ、右もつかみ、ゴールに手を出して落ちたので成績は当然1トライで4+までいったということになります。

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そして4人目の藤井選手。1トライ目の動きを細かく説明します。
半月左を左手で取りに行くところまではほかの選手と同じですが、藤井選手は左を保持した後一度戻り、半月の一つ手前のホールドを持ち替えるとそこから右手で半月右のホールドを保持します。そして足を上げ、右手を出してゴールのホルドを取りに行きますが届かずフォールします。
楢崎選手の登りと結果から、半月右が高度4だと推測していたので、それを持って次のホールドに手を出した藤井選手は1トライ目で4+の高度を獲得したのかと思いましたが、最終結果では藤井選手の成績は4トライ目で到達したとなっています。

藤井選手は2トライ目と3トライ目は下部で落ちてしまい、4トライ目でほかの選手と同じように半月を両手で持ち、ゴールを取りに行っていました。
1トライ目のクライミングで4+と認められないということは半月の左が高度4のホールドなのでしょうか。
しかしそれなら楢崎選手の1トライ目で4+の成績が出ないのが不思議です。
半月についた2つのホールドを両方保持した状態でゴールに向かうという動きが必要いうことなのでしょうか。
どなたか教えてください...。


とはいっても、私も後から映像を見返して疑問に思ったので、リアルタイムではこのときチョン選手と緒方選手の最終ラウンドを興奮しながら待ち構えていました。

2人はオブザべを終えると、笑顔でグータッチをしてチョン選手はクライミングの準備を、緒方選手は壁の裏に戻っていきました。
いよいよ優勝者を決めるというときにこういった行動ができるのはクライマーらしいです。

第3ラウンドはあっという間でした。
登り始めたチョン選手は1手目に飛びつきます。体が回転して背中が壁に当たるほど振られても手を離しません。そしてゴール手前、少し迷いのある動きを見せますがすぐに飛び出し、なんと1撃で3課題目を登ってしまいました。

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このパフォーマンスに会場は今までで一番の盛り上がりを見せます。

興奮冷めやらぬ中、緒方選手のクライミングがスタートします。
最初のランジ、体をうまくコントロールして振られを後ろに逃がすことできれいな動きで止めました。

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緒方選手の1撃の期待が高まり声援が大きくなります。
それに押されるように、緒方選手が止まることなくゴールまで登り切るとその瞬間会場はさらに大きな歓声に包まれて、緒方選手の雄叫びもかき消えるほどに盛り上がりを見せました。

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チョン選手の完登によって大きなプレッシャーをかけられたはずの緒方選手ですが、競技後に話を聞くと、
「もう順位とか関係なく、楽しもうという気持ちだった。最後のムーブはオブザベの段階ではわからなかったけど、自然と体が動いた。ゴールしたときはめちゃくちゃ嬉しかった。」
と、純粋な気持ちで課題に向き合っていたことを話してくれました。


2人の選手が完登したことで、スーパーファイナルが行われることになりました。

最後の課題、見るからに持ちにくそうなホールドが並んでおり、圧倒されるような課題です。

チョン選手はスタートから1手目に右手で入り、離れた左足をすぐに左のホールドに繰り出すと同時に左手は右手の後を追うように1手目をつかみにいきます。

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しかしなかなか止めることができません。
耐えて耐えて、体をコントロールしようとしても、ギリギリのところで落ちてしまいます。
チョン選手ですら1手目も止められないとは、どれほど難しいのかと恐ろしくなってきます。
何度も諦めずにトライを続けますが、結局1手目をとらえきれず最後のクライミングタイムが終了します。大きな拍手の中、チョン選手は壁の前を後にしました。


そして登場する緒方選手。THE NORTH FACE CUP 2019最後の最後、締めくくりのクライミングです。

緒方選手の1トライ目、なんとチョン選手が1度も止められなかった1手目を見事止めてしまいました。
会場は再び興奮を取り戻し大きく沸きます。

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得意のピンチをわしわしつかんで歩くように登っていきます。

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しかし上部の大きなハリボテが並んだセクションでは、為す術がないといった様子で落下してしまいます。

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その後数トライ、最初の一手が決まらず、もどかし様子の緒方選手。諦めずもう一度トライ。すると今までとは全く違うムーブで1手目をキャッチします。
ここに来てムーブを変えるのは勇気のいる難しいことですが、緒方選手はやってのけ、また上部へと登っていきます。

そして2つのハリボテまで来ると、またさっきとは違う動きをひねり出してきます。
足を先に上に上げてしっかり固定してから手を動かしていく戦法。

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このダイナミックな動きにまたしても会場が沸き上がります。
祈るような声援で緒方選手のクライミングを見守ります。
苦しそうに耐えつつ数手進めますが、力尽きるように落下してしまいます。
観客も一緒になって悔しそうな声を上げ、ラストトライへの声援を送ります。

熱い歓声の中、力を振り絞って1手1手登っていきますが、途中でフォール。
しかし観客からの声は途切れることなく、最高のパフォーマンスを見せてくれた緒方選手に拍手を送ります。

緒方選手はやりきったという表情でエリアを出でいきました。


最後のムーブについて緒方選手に訪ねると、
「1回目の動きでは絶対無理だとわかり、ほかのムーブを考えた。足先行ののムーブはワンチャンあると思ってやってみた。」
らしい。最後まで本当にクライミングを楽しんでいたんだと思いました。


今回この大会には5歳から59歳の選手が参加した。それぞれの歩幅でクライミングを楽しみ、自分の限界へ挑戦する面白さを感じられたでしょう。
その全選手の頂点に立つクライマー達は本当に素晴らしいクライミングを見せてくれました。もっと見ていたいと思わせる登りでした。
4月から始まるワールドカップがますます楽しみです。