昨日(1月27日土曜日14時開演)、今年初めてのオペラ鑑賞で初台の新国立劇場へ。曲目はチャイコフスキーのオペラ「エフゲニ・オネーギン」(全3幕)。

新国立劇場によるあらすじは以下の通り。

【第1幕】ラーリン邸。農村の女地主ラーリナの二人の娘、読書好きで物静かな姉のタチヤーナと陽気で外交的な妹オリガのもとを、オリガの婚約者のレンスキーが、友人オネーギンを連れて訪れる。タチヤーナは一目でオネーギンへの恋に落ちる。その夜、眠れないタチヤーナは意を決してオネーギンへの恋文をしたため、オネーギンへ届けさせる。ラーリン家の庭にオネーギンが現れ、タチヤーナに手紙を返す。ニヒリストのオネーギンは、自分は結婚生活に向かない人間だと冷たく告げ、タチヤーナに自制することを学ぶよう諭す。

【第2幕】ラーリン家の舞踏会。オネーギンがタチヤーナと踊っていると、客たちは二人の噂話を交わす。オネーギンはつまらない舞踏会に自分を誘ったレンスキーへの腹いせにオリガとばかり踊る。これを侮辱と捉えたレンスキーはオネーギンと激しく口論し、ついに決闘を申し込む。凍てつく冬の朝、決闘場所の水車小屋でオネーギンを待つレンスキーは、過ぎた日を懐かしむ。オネーギンが到着し、介添人の下で決闘が行われる。オネーギンが撃つとレンスキーが倒れ、オネーギンは友人の死におののく

【第3幕】数年後、サンクトペテルブルクのグレーミン公爵邸の舞踏会。社交界から離れ放浪の旅を続けていたオネーギンが久しぶりに現れ、グレーミン公爵夫人となったタチヤーナに再会し、その変貌ぶりに驚く。グレーミン公爵がオネーギンに妻を紹介し、いかに妻を愛しているか語る。タチヤーナの優雅な姿に今度はオネーギンの心が燃え上がる。オネーギンはタチヤーナのもとを訪れ、憐れみを乞う。オネーギンの激情にタチヤーナも心動かされるものの、オネーギンの自尊心に訴え、公爵と共に生きる運命に従う、と言い残し去っていく。


5年前に今回と同じドミトリー・ベルトマン演出で、アンドリー・ユルケヴィチ指揮東京フィルのオーケストラ演奏で聞いたが、今回はヴァレンティン・ウリューピン指揮東京交響楽団に代わった。このオーケストラが実に素晴らしかった。

歌唱にピッタリ寄り添うような伴奏と激烈な場面では容赦のないフォルティッシモが炸裂した。最近の東京交響楽団の充実ぶりを遺憾なく発揮していた。


ヒロインのタチアーナ役のエカテリーナ・シウリーナ(ソプラノ)は歌唱も演技も水準以上だが、もう少し若やいだ雰囲気が欲しかった。その妹のオリガ役のアンナ・ゴリャチョーワ(メゾソプラノ)はちょっと低音を効かせ過ぎて、茶目っ気のあるこの役らしくなかった。

オネーギン役のユーリ・ユルチェク(バリトン)はニヒルなオネーギンではなく、若々しい歌唱でそれなりに説得力があった。

オネーギンの親友レンスキーを演じたヴィクトル・アンティペンコ(テノール)が素晴らしい美声を聞かせた。

また、成長後のタチアーナの夫役であるグレーミン公爵役のアレクサンドル・ツィムバリュク(バス)が貫禄を示す歌唱で喝采を浴びていた。


主要な役は全て新国立劇場初登場のロシア・ウクライナ出身歌手で固められていたのが今回のセールスポイントだ。ロシア語は発音が難しい上に、チャイコフスキー作曲の歌曲・オペラは歌い辛いと言われているが、まさに本場の歌唱を楽しめたことになる。なおオネーギン役とグレーミン公爵役はウクライナ出身者で、他はロシア出身者のようだが、新国立劇場の場合は1演目について3週間〜4週間の念入りな準備をするのだが、その間問題はなかったのだろうか?もう2年になろうとするロシアのウクライナ侵攻だが、そろそろなんとかしてほしいものである。

ベルトマンの演出はスタニスラフスキーが1922年に演出したオペラ「エフゲニ・オネーギン」を現代的にしたものだ。常に4本の太い柱が舞台を支配するのが特徴的だ。面白かったのは、第2幕第1場(ラーリナ家の舞踏会)。紗幕やストップモーションを駆使してコメディ仕立てにしている点。このコメディ仕立ては、第2場の決闘シーンでも

継続し、オネーギンの介添人が常軌を逸した酩酊ぶりなのがちょっと異様。5年前はこんなにハメを外していたかな。このあたりは賛否が分かれるかもしれない。


しかし、このオペラの主役は全編に溢れるチャイコフスキーのセンチメンタルなメロディである。私などちょっと赤面するほどだが、年初から災害や事故、政治腐敗に心を痛める今、稀代のメロディーメーカーの名旋律に浸るのもよいかもしれない。


1月31日(水)14時、2月3日(土)14時に残りの公演がある。