新日本フィルの音楽監督を昨年任期(5年)満了で辞めた上岡敏之(1960.9.20〜)は何をしたいのだろう?今回の演奏会にはその回答があったかもしれない。ワンランク上のオーケストラで本当に演奏したい曲を指揮するには、やはり辞めるしかなかったのだ。

今回のコンサート(5月24日サントリーホール/コンサートマスター:長原幸太)では女性の死に関する3曲が選ばれた。自分の母の死をめぐるウェーベルンのOP.6、殺されるマリーをめぐるオペラ「ヴォツェック」からの3つの断章(ベルク)、愛する王子のため自死する人魚姫(ツェムリンスキー)という素晴らしいプログラム。仕事をさっさと終わらせて駆けつけたが、客の入りは7割ぐらい。マニアと上岡ファンが多いようだ。


最初のウェーベルンが感動的。ほぼ聞こえないピアニッシモと思わずのけぞるほどのフォルティッシモの超コントラスト!また第4曲の葬送行進曲がきちんと行進曲になっているのをCDを含め初めて聞いた。これはもう一度全体を聞きたかった名演。


前半2曲目の「ヴォツェック」からの3つの断章は、あれっ?独唱者はどこ?と思わせておいて途中からマリー役の森谷真里が登場。オーケストラの後ろの位置から叫ぶのだが不調なのか私の席までは声が届かなかった。さらにTOKYO FM少年合唱団が登場して日本語でオペラのラストシーンを演じるというオマケまで付いた。こちらのセリフはちゃんと聞こえた。この少年合唱団は実に素晴らしい。


後半の交響詩「人魚姫」は上岡敏之(現在コペンハーゲン・フィル首席指揮者)の十八番のようで、濃厚でロマンティックな大演奏だった。マーラーともリヒャルト・シュトラウスとも違うオーケストレーションだ。リムスキー・コルサコフの「シエラザード」風というかシェーンベルクの「グレの歌」風というか実に楽しめる曲で、ヴァイオリン16型4管編成でホルン(トップ日橋辰朗)はなんと7人!これは同コンビの今週土曜日の東京芸術劇場でのチャイコフスキー「悲愴」も聞かなきゃならないかな。