一昨日(11月15日月曜日)、初台の新国立劇場に11月18日初日のワーグナー楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」のゲネプロを見た。30分の休憩を2回挟んで14時に始まって20時に終演。じつに6時間の長丁場である。さすがに疲れる。


長いだけでなく、第3幕の民衆表現ややはり終幕前の主人公ハンス・ザックスのドイツ精神を讃える演説など演出上でかなり難しい箇所があるオペラである。とくにベックメッサーという登場人物が反ワーグナー派のユダヤ系音楽評論家ハンスリックを戯画化していると言われるために、このドイツ精神讃歌が反ユダヤ主義の色調を帯びているとされていて、この演出上の処理がポイントになっている。それが、今回のイェンス=ダニエル・ヘルツォークの演出では痛快な解決が見られるのである。これはなかなか見事だと思う。ネタばれになるのでこれ以上は書けない。


その他のヘルツォークの演出では、少し回り舞台の活用やディテール表現が過度ではないかという点と第3幕での民衆表現が今ひとつというのが私の感想だ。


この公演は、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場、東京文化会館との国際共同制作の一環だ。そして「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は新国立劇場では2005年に上演されて以来実に16年ぶり。それも本来は昨年6月にこの新演出で上演される予定だったがコロナで中止。また今年は、今回の新国立劇場での上演に先駆けて8月に東京文化会館で上演される予定だったが、これもコロナ禍で中止されるというアクシデントが続いていた。やっと日本で上演に漕ぎ着けたというわけだ。


歌手陣が素晴らしい。ハンス・ザックス役のトーマス・ヨハネス・マイヤーは、この役のデビューだというがすでに自家薬籠中のものにしている。

ベックメッサー役はアドリアン・エレート。中年のスマートな伊達男というニュータイプのベックメッサーが素晴らしい。この2人は新国立劇場によく登場している。ヴァルター役のシュテファン・フィンケも激情的な表現が見事だった。その恋人のエーファ役の林正子が、今回のヘルツォーク演出の鍵を握るのだが、これがなかなかお見事。その他ハンス・ザックス親方の徒弟役の伊藤逹人はなかなか芝居上手でこの楽劇がコメディだということを思い起こさせる。 


新国立劇場オペラ部門芸術監督の大野和士が指揮を務め、大野が音楽監督を務める手兵東京都交響楽団がオーケストラピットに入っているが、さすが充実した伴奏になっているのも特筆したい。


ワーグナー・ファンは必見だろうし、オペラ好きにも推薦したい。公演スケジュールは、11月18日16時、11月21日14時、11月24日14時、11月28日14時、12月1日14時の5日間だ。