TV放映を録画していた映画「ラストタンゴ・イン・パリ」(1972年 ベルナルド・ベルトルッチ監督 2時間9分)を見た。前に見たことがあるはずだが問題作なのにちゃんと見ていたのか判然としないほど覚えていない。この他にも2時間16分版やノーカット版があり、ノーカット版は実に4時間10分もある。しかし、この一番短い版ですら見るのが辛い映画だった。出来にムラのある監督だがベルトルッチ作品としてはハッキリ言って駄作だろう。ベルトルッチ監督でマーロン・ブランド主演という看板(ブランド)が、必要以上に話題作にしてしまったのだろう。ただしヴィットリオ・ストラーロの撮影は相変わらず素晴らしい。

中年男の醜い生態に興味がある方以外は見るのを避けるべき映画だ。


有名なバターレイプのシーン。猥褻映画裁判になってイタリアではその後15年間上映禁止措置。このシーンの撮影を聞かされなかったというマリア・シュナイダー(1952年生まれで撮影当時は19歳)は人生を悲惨なものにされたとベルトルッチなどの関係者を恨み続けたらしい。ことあるごとに「芸術という言葉を持ち出して、裸になることを要求する連中のほとんどは詐欺師だ」と言い続けていたという。マーロン・ブランドは別れた妻から「こんな破廉恥な映画に出る男に親権はない」と言われ親権を奪われたという。

上掲写真はタイトルの由来になったパリのダンスホールで2人が踊る別れのタンゴのシーン。この舞台になったパシー駅周辺は地下鉄が地上に出てくる高架になっている。16区の高級住宅地なのに

猥雑に入り組んだ街である。かつてフランス人の友人がいてこのあたりをよく徘徊した記憶があるが、街の雰囲気がよく捉えられてはいる。


この映画のヒロインであるマリア・シュナイダーはその後ジャック・ニコルソンと共演した「さすらいの二人」(1974年 ミケランジェロ・アントニオーニ監督)などの出演作があるが、あまりパッとせずに精神障害を負い、薬物に溺れ、バイセクシュアル公言、自殺未遂などを経て、2011年に58歳で癌のため死去した。下の写真は晩年のもので人が生きることの辛さをひしひしと感じさせる。あんなに輝いていた彼女がこんな老いて疲れてしまうとは信じられない。この写真が彼女の最高傑作ではないか。そう言ったら叱られるか。

「ラストタンゴ・イン・パリ」、なんとも罪つくりな映画だったようだ。