「サウダーヂ」(2011)

日本映画専門チャンネルで映画制作集団空族(くぞく)が制作した映画の放映(2月27日)があって3作を録画して見た。前半にあたるこの第1週は、「雲の上」(2003年 富田克也監督 インターナショナル再編集版 1時間55分 8ミリ)、「国道20号線」(2007年 富田克也監督  1時間17分 16ミリ)、「サウダーヂ」(2011年 富田克也監督 2時間47分 35ミリ 上掲写真)の3作が放映された。

「雲の上」(2003)
「国道20号線」(2007)


空族の映画は、DVDなどのソフト化、TV放映を拒み続け、映画館でしか見られなかったので、このTV放映は画期的とかなり話題になっている。コロナ禍で映画館上映がなかなか難しいということで

TV放映を認めたのだろうが、TVでしか映画を見ない私などには、空族の映画を知る絶好のチャンスになった。


舞台は3作とも富田克也監督の出身地である山梨県だ。山梨3部作と言われ、2003年から2007年を経て2011年に至る地方都市の没落が描かれている。


「雲の上」(2003年)は、傷害で刑務所に入り出所してきた寺の跡取り息子とその親友のチンピラの話。山梨3部作のスタート地点。映画美学校卒業制作作品として8ミリで撮られた。まあ8ミリの汚い映像で卒業制作の域を出ていないし、私小説的な作品なのではないだろうか。


「国道20号線」(2007年)では、サラ金のATM、巨大パチンコスロットセンター、ショッピングセンターや激安の殿堂ドンキホーテといったものが国道20号線沿いに立ち並び地方都市を跳梁跋扈している。これがリーマン・ショック(2008年)前の地方都市のバブリーな姿なのであろう。元暴走族でシンナーとパチンコスロットに明け暮れる無職男とその恋人の自堕落な生き様を描いている。これは16ミリだがなかなか見せるが、中上健次、柳町光男、デニス・ポッパー、タランティーノなどからの影響が色濃く残っている。


「サウダーヂ」(2011年 スペイン語で郷愁とか切なさの意味)は35ミリ撮影。俄然画面が明瞭になっている。と言っても世の中はとっくにデジタル撮影時代で、空族がフィルム撮影にこだわったために最後のフィルム撮影作品になった。空族の代表作とされている。日本人の土方、ラッパーに加えてグローバル化して甲府市周辺に出稼ぎに来ているあるいは定住するブラジル人、フィリピン人、タイ人が重層的に描かれる。さらにメンヘラ引き篭もり(ラッパーの弟)、怪しげな水ビジネス&デリヘル経営者、その怪しげな水のマルチビジネスにハマるもとキャバ様のエステシャン(土方の妻)などなど多士済々。甲府駅前はシャッター街化していて、完全に没落した地方都市が描かれる。数々の影響から抜け出した独自の世界観があって、たしかに面白いがさすがに2時間47分は長い。さらに唐突に出てくるウェディング会社社長とその愛人なんかがいて消化不良部分もある。なお宮台真司が政治家で出演していて笑わせる。製作費は1500万円とWikipediaにあるが、それでここまで撮れるのは大したものだ。メジャーから監督依頼はないのだろうか。


期待していたほどではなかったが、空族の実態はよく分かった。後半の3作(3月6日土曜日放映)も見てみようと思わせた。後半では、舞台はいよいよ山梨を離れる。