錦糸町のトリフォニーホールでショスタコーヴィチのスペシャリスト井上道義指揮新日本フィルのオールショスタコーヴィチ・コンサートを聴く。前半はジャズ組曲第1番、バレエ「黄金時代」組曲。20分の休憩後、後半は交響曲第5番。アンコールはバレエ「ボルト」から荷馬車引きの踊り。ショスタコ好きの私は、お腹一杯。しかも、井上の落語みたいなトーク付き。

「この交響曲第5番は以前は大嫌いだった。よく考えたら、ろくな演奏を聴いていなかったから、嫌いになるのも当然。今日は楽譜通りに演奏しますからお楽しみに」とか「1920年から1932年ぐらいのソ連というのは世界で一番全てにおいて前衛的だった。なにせ天皇、いや大変な間違い、皇帝を殺しちゃったぐらいだから。もう土俵がなくなっちゃって、なにをしていいか分からなくなったからなんでもあり」。ジャズ組曲第1番にハワイアンギターやバンジョーがある不思議をそう説明した井上だが、前衛的なのと珍楽器の使用は関係があるのかな。このジャズ組曲第1番は13人ほどのミニコンボの演奏。もうちょっと遊んでほしかったが楽しいことこの上なし。ジャズといってもダンス音楽である。

まあ、井上の舌禍はトレードマークみたいなもの。師匠のチェリビダッケに「あなたは、極端なpppと極端なfffの多用して効果をあげるという誘惑に負けている」と批判して破門された男ですから、なんでもあり。

とにかく口も達者だが、演奏も絶好調。かつて新日フィルの音楽監督でもあったから気心の知れた仲なのだろう。チェリビダッケを批判していたが、井上の演奏に神経質なpppはない。正攻法で豪放磊落。さて、ショスタコ5番でいつも問題になるのが最終楽章のテンポ。「楽譜通りにやる」と宣言した井上だったが、第3楽章からアタッカで入った最終楽章は、これで最後まで持つのかなと思わせるぐらいの超スロー。しかしこれで押し切った。いつもはあまり沸かないトリフォニーの客席からはブラボーの声がかなり上がった。アンコールはバレエ「ボルト」から荷馬車引きの踊り。「コンクリートもアスファルトもない時代の荷馬車ですからね」という井上のオーバーアクションにオーケストラも弾きまくり吹きまくる。チラシにあるようにミチヨシズム炸裂‼️です。満腹満腹。明日も同じコンサートがあるが、このコンサート4500円はお値打ちである。

井上(1946年12月23日東京生まれ。72歳)は、この新日フィル、日本フィル、京都市交響楽団、大阪フィル、オーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督、首席指揮指揮者を歴任してきた。しかし、海外のビッグオーケストラからは結局シェフ就任の声はかからなかった。プロフィールからはニュージーランド国立交響楽団首席客演指揮者というタイトルしか見当たらない。実力や風貌を始めとしたキャラクターは十分だと思うのだが、何が足りなかったのだろう。舌禍!?