TV(スターチャンネル1の無料放送)で映画「パターソン」(2016年 ジム・ジャームッシュ監督。116分)を観る。アメリカ・ニュージャージー州パターソン市(人口15万人)のバス運転手(アダム・ドライヴァー)が妻(ゴルシフテ・ファラハニ)と愛犬マーヴィン(カンヌ映画祭でパルム・ドッグ賞に輝くがその後死亡したネリー)と過ごす平凡な1週間をユーモラスかつ淡々と描いた映画。

バス運転手の名前は街の名前と同じパターソンでアマチュア詩人という設定。ジャームッシュ監督の創作力の減退と見るのか、ジャームッシュ芸術の到達点と見るのかは意見の分かれるところ。私的には、ミニマル映画の先駆として大評価したい。平凡な日常はちょっとしたハズミで大惨事や大事件になる可能性を秘めている。例えば、主人公が運転するバスを見舞った電気系統のトラブルは漏電箇所のズレで大事故になっていたかもしれない。また主人公が犬の夜の散歩中に必ず立ち寄ってビールを一杯だけ飲むバーで、失恋男が銃を乱射しそうになり、主人公に取り押さえられる事件があった。その銃はオモチャだったが、本物であってもなんの不思議ではなかったという具合だ。神の恩寵で静寂を続ける平凡な日常という不思議な世界!116分間、私は全く飽きることがなかった。
映画の最後で、パターソン市を大阪から訪れた日本の詩人(永瀬正敏)と主人公が、公園で遭遇する。パターソン市は、主人公が尊敬する詩人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズやアレン・ギンズバーグが生まれた街だ。日本人詩人はそうしたパターソン市を一度見たいと訪れていたのだ。永瀬正敏は、ジャームッシュ監督の1989年「ミステリー・トレイン」(1989年)にも出演していた。いかにも日本人の詩人という出で立ちなのが笑える。日本好きのジャームッシュでも、日本人を描くとステレオタイプになるのが可笑しい。