大賞作として見ると物足りなく感じるし、テーマ負けしている感も否めない。
しかしエンターテイメント性はそれなりに認められるし、つまるところの問題は『この作品に何を求めるか』ということなのではないかと思う。読み終わるのに二時間と十分かかった。ちょうど映画一本を鑑賞するのと同じだけの時間をこの本に費やしたことになる。
登場人物の思考や心情はそのままセリフとして表に出されることが多く、また文章も平易であったため、読後感も映画を観たときのそれに似ていたように思われる。前評判がイマイチだったので正直なところあまり期待はしていなかったのだが、総じて案外楽しめたなという印象である。
経済苦から自殺を決意したヤスオが、『全日本ドナー・レシピエント協会(全ド協)』なる秘密組織に属する黒服の男・キョウヤから多額の報酬と引き換えに臓器提供をしてくれないかという話を持ちかけられるところからこのお話ははじまる。
命と金についての哲学が展開され、それはやがてヤスオと二十歳の女の子・アカネとの出会いを経て、命と愛の物語へとシフトしていくことになる。
本作は端的に言って、『金』と『命』、そして『愛』についてのお話なのである。
著者の文章力はけっして高いものであるとは言えない。稚拙であると言ってもいい。比喩がむやみやたらと多い割には描写に物足りなさを感じてしまう。しかし臓器密売組織『全ド協』やハンドル式人工心臓といった『非現実的な気もするけれど、もしかしたら……』と思わせる仕掛け・アイデア、そしてその使い方・演出には魅力も感じられ、そういったユーモアセンスに対しては好感を持つことができた。
多少の説明不足はあったにせよ、ストーリーに致命的な破綻があったわけでもなく、一部で問題視されていたダジャレも特にひどい使われ方をされているようには感じられなかった。
『命』というテーマの大きさの割には話に深みが足りず、オチもややご都合主義的(どこよりもここが説明不足)、大賞にふさわしい作品であったかどうかと問われると首を傾げたくなりもするのであるが、いつまでも賞云々の話にこだわっていても仕方がない。
メッキ加工された金の卵だったのか、それとも本物の金の卵だったのか――その判断を下すのは次回作を読んでからでも遅くはないだろう。
KAGEROU/齋藤 智裕

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