仕事が終わり、
ちょっくら病院で元気になる点滴してもらって、
タクシー拾って、
『さあ、帰るべ。』と着いた家路。
最初は、
『あ、そういえばパンスト切れてたなぁ。』
『来週月曜日は大阪でライブだし、
少し多めに買い込んでおかないと。』
と思い立った、その程度だったのに……。
ここからは、
私が月に一度くらいのペースで陥る、
世にも奇妙な帰り道のお話です。
とりあえず、
途中のコンビニでタクシーを待たせ、
「パンスト。パンスト。」と唱えながら、
店内を探すも、目当てのパンストがない。
もしかすると青い方じゃなくて、
緑の方のコンビニだったかも……。
記憶の悪さと学習のしなささは、毎度のことだ。
とっとと次へ行こう……と思ったのだが。
ここで皆さんに問いかけてみる。
一度カゴまで持って入った店内に、
目当ての商品がなかったとしても、
空のカゴを戻して、手ぶらで出られます?
私はできない。
店員に『○○ありますか?』と尋ねて、
それでもなかった時は、『じゃあ、すいません。』と言って、
店を出ることはできても、
無言で入って無言で出ることに、
とてつもない罪悪感を感じてしまう。
……とかなんとか考えてる内に、
自然と体はチョコ売り場へ。
たぶん、昨日も一昨日も、
どっさり買ったはずの商品を、
今日もドサッとカゴに入れながら、
何となくそれだけだと変な人満載なので、サラダとスープも。
手ぶらは回避できたことに胸を撫で下ろし、レジをして、再びタクシーに乗り、もう一軒別のコンビニへ行って欲しい旨を、運転手さんに伝える。
お次は緑色のコンビニ。
賑やかな店内音楽が鳴り響く中、
『パンスト。パンスト。』と小声で唱えないと、私はすぐに迷子になる。
自分の目的を見失ってしまう。
ない……。
ということは、もうひとつの緑の方のコンビニなのか?
とりあえず、
麦茶が切れていたような気がしてきたので、
麦茶をカゴに入れ、とんがりコーンが目に入ったので、それもカゴの中へ。
レジを済ませて、三度タクシーに乗車。
7と11が目印のコンビニは、少しだけ遠回りになる。
でも、パンストは思い出した時に買っておかないと、
また出かけに、
履いては伝線→脱ぐ
履いては伝線→脱ぐ……の繰り返しになってしまう。
しかも来週の月曜日は、
大阪で初のワンマンライブだし。
新しいパンストだけは絶対に今日買わないといけない!
少し遠回りだけど、この『7と11』は、広くて綺麗だ。
あと数10メートル手前にあったら、毎日通うのに残念だ。
久しぶりの『7と11』にルンルンしていたら、パンストのことなど完全に忘れていた。
一目散にお菓子売り場へ行き、アイスを物色し、ついでにお弁当も買おう!と、
かなり盛り上がってきた。
しかし、弁当売り場には、若いサラリーマンやOLがわんさかおり、
なんだかんだと喋りに夢中になりながら、夕食の弁当を選んでいた。
さすがに、そこを割って入って、
蕎麦か親子丼かグラタンかを、迷い悩む勇気は私にはなかった。
せっかく遠回りしてきたのに、なんなのさ!と、
若干不機嫌モードのスイッチが入った瞬間、パンストのことを思い出した。
そうだ。私はただ軽やかに、
パンストだけ買って帰ろうとしてただけだったんだ……。
気付けば、コンビニを3軒も、タクシーでハシゴし、
今だ目的を達成できていないこの有様。
落ち込みながら、パンスト売り場へ行くと、
あった!
やはり『7と11』のブランド商品だったんだ。
もう忘れない。忘れるもんか!と、固く誓ったが、
同じことを7年近く繰り返していることを、今思い出した。
これで、すべての目的というか、
もともとは唯一の目的だったことが完結し、ようやく家へ帰れる。
タクシーの運ちゃんとしても、こんな近距離で、
かなりおいしい客を乗せたもんだ。
ところが。
コンビニを出ると、目の前にスーパーが飛び込んできた。
そう。この少し遠回りな『7と11』の隣には、スーパーがあるのだ。
よほどの意を決することがない限り、私はこのスーパーを利用することがない。
なぜなら、コンビニ以上に目的を見失い、迷子になり、とにかく大変なことになるから。
しかし、私はできることなら、このスーパーを活用する暮らしを送りたいと、常に心のどこかで思いながら生きていることも事実だ。
しかし、何度トライしても無理だった。場所も少し遠回りだし、
何よりネックなのは、売り場が2フロアに分かれていること。
何度も1階と2階を往復することになった挙句、いつも肝心なものを買い忘れる。
もちろんダメなのは私の方だ。スーパーで苦労をしなくても、今やあらゆるコンビニが、こうして私の食生活の7割近くを支えてくれている。もちろんパンストも。
でもどうしよう。せっかくここまで遠回りして、タクシーもここまで待たせたんだし、
ご飯になるようなものは、サラダとスープしか買ってないし……。どうしよう……。
そうだ!
刺身だ!
以前、壇蜜ちゃんから、スーパーの刺身を家でひとりで食べる幸福感を教えてもらい、
以来、何度か実践してみたら、とても乙なものだった、今日はそれをしよう。
約2ヶ月半振りのスーパーで、私が買いたいものは、刺身のパックなんだ!
なんだか、周り廻って結局のところ、今日はとっても冴えている気がしてきた。
タクシーにコンビニの袋を預け、もう少しだけ待ってもらえるようにお願いし、勇ましく入店した。
すぐに油コーナーが目に入り、そしてすぐにゴマ油が切れていることを思い出した。冴えている!
しかも数あるブランドを前に、そう言えば以前から、
『岩井の胡麻油』という銘柄を買いたいと思っていたことも思い出し、
さらには、10秒足らずでその商品を探し当てることができた。かなり冴えている!
そして、ここのスーパーには、常日頃私が買いたい・食べたいと思っているものの、
コンビニには置いていない『中華三昧』というラーメンも売っていることまで思い出した。
ナイス!記憶の連鎖!冴え渡れ私!
ラーメンを買ったということは、野菜も買おう。
ラーメンを4袋買ったのだから、4食分のもやしやキャベツやニンジンが必要だ。
野菜は2階だ。気づくと私は2階にいた。もやしやカット野菜の種類もたくさんあって楽しい。
一通り試してみることにした。
今日は冬至だ。一年でいちばん寒い日だ。
暖かい家庭は、朝起きたらパンを食べるのだ。シリアルも食べるような気がするが、
牛乳はお腹が痛くなるので、とりあえずパンを買おう。これで寒い冬も心配ない。
今日の私は冴えまくっている。寒いんだから今夜はもちろん風呂に入ろう。
そう言えば、数週間前から、風呂のタイルの淵に、うっすらカビが生えているのが気になっていた。
毎日気になるのに、毎日コンビニや薬局へ行く度に、カビのことを思い出すことはなく、数週間経ってしまった。今、ここで、カビキラーを買おう!
カビキラーは1階だ!と思ったら、目の前は偶然エレベーターだった。カートのまま1階へ行ける!
しかもボタンを押す前に、扉が開くではないか。今夜私はカリスマ主婦なのかも知れない。
カビキラーを目指す途中に、珍しいお菓子売り場があった。
カリスマ主婦ならば、外国のチョコにも手を出していいはずだ。
外国のパスタも買おう。外国のマカロニも買おう。でも明太子ソースは国産に決まっている。
溢れ返ったカゴから、マカロニの袋がひとつ床に落ちた。
それを拾い上げながら、ちょっとだけ考えてみた。
私、今日の夕飯は何を食べるつもりなんだ?
パスタ?マカロニ?ラーメン?パン?なんかコンビニでも買ってなかったっけ?
家って何人家族だったっけ?は?家族って何?
少しだけワケが分からなくなってきて、少しだけ迷子の気持ちが蘇ってきて、少しだけ泣きそうになってきたところに、
スーッと壇蜜ちゃんの顔が、私の頭を横切った。
あ!刺身だ!刺身買わなきゃ!刺身買わなきゃ!刺身は2階!
山積みになったカゴとカートを、なんとなくエスカレーターの脇に置き去りにし、2階へ駆け上がった。途中で誰かに握手を求められたような気もする。
刺身だ!何の魚かもよく分からないまま、何パックか手に取り、1階へ降りた。
よく見るとなぜか、松茸ご飯も一緒に抱えていた。本能が突っ走ると、人は記憶が飛ぶのかも知れない。
置き去りにしたカートを取り戻し、溢れ返ったカゴをレジに持っていく。
とにもかくにも達成感と安心感。
買ったものを、自分でビニール袋に詰めていくという、スーパーならではの作業をしながら、
記憶の遠いところで見たものや、記憶にまったくないソーセージやハムが次々と出てくる。
しかし。ここで考え込んだらダメなのだ。これはもう、恐らく発作の一種だ。
これも含めて、ひとり生きていくのが、私が選んだ道なのだ。
途中、妄想の中の家族だか子供だかにお菓子を選んだり、普段は食べないパンを買ったりしたことも、深く考えるな。それ『込み』の人生なのだ。
これが、タクシーで10分ちょっとの道すがら、4軒のコンビニとスーパーで買ったものたちです。
一年で最も寒い日に、ちゃんとエネルギーを蓄えろと、本能がそうさせたのだと信じるしかない。
帰ってから見たら、パンは入っていませんでした。すべては知らず知らずの内に……ということです。
今夜はとりあえず、
刺身と松茸ご飯を頂こう!その間に風呂のカビ掃除をしよう!
刺身は、中トロと真鯛とカンパチを買っていました。しっかり大好物ばかり。冴えている!
しかし、
先ほど驚愕の事実が発覚しました。
家には醤油がなかった……。
大丈夫よ。
少し夜遅いけど、
息子に買いに行かせますんで。