財布を落とした。


僕のような生活をしてる人間にとっては、生きる為に必要なもの全てが財布に入っているので、ポケットに財布がないと認識した瞬間、ジェットコースターで落下する時と全く同じ動悸に襲われた。


いや、あの下から這い上がって来た恐怖に心臓を鷲掴みにされる感覚、あれは財布を落とした時にこそ感じる恐怖だ。


だから今後ジェットコースターに乗った時は、


『あの財布落とした時みたいなキューッ!て感覚たまんないよね~。』


と言うようにして下さい。


そして、財布を落とした悲しみがようやく癒えようとした頃に、免許証が見つかったという連絡が届いた。


僕は早速、警視庁遺失物センターに向かい、担当の方に免許証を取りに来た事を伝えた。


すると、


『何か、ご本人確認出来る物はありますか?』


そう平然と言い渡された。


僕は一瞬、これはとんちか何かで僕が落とし物を返すに値する人間かどうか計られているのではないかと思った。


しかし僕には、その難解なとんちの答えを導き出す閃きなどなく、これまでの経緯を事細かく説明する他なかった。


すると担当の方は、少しうんざりしたように、郵便物とかもないですか?と聞いてきた。


僕はカバンの中から、しわくちゃになっている郵便物に貼られていた紙を見つけ、何とか免許証を返して貰う事が出来た。


あの時、僕は全く太刀打ちする事が出来なかったが、もし現代に一休さんが生きていたのなら、一体どんな閃きを見せてくれていたんだろうか。。。