先日、後輩芸人の『お見送り芸人しんいち』と飲みに行った。
彼は新宿駅前の人だかりを見ると異様な興奮を見せ、
『難波さん!僕ナンパして来てもいいですか!』
と、目を血走らせながら言ってきた。
僕は内心、
『嘘やろ。』
と思いながら、いいよ、と言って1人電気屋の前でナンパが終わるのを待っていた。
彼は1時間近く色んな女性に声をかけ、僕は1時間近く電気屋の前で待っている間に、ホームレスのおっさんに声をかけられた。
オッサンは僕の隣に腰掛け、
『みんな今から帰るのかねぇ。』
と、駅に吸い込まれて行く人波を見て呟いた。
同じ側の感じで喋りかけられてるやん、と思いながら、
『そうですね。』
と返事をすると、
『吸うか?』
と、しわくちゃの箱に入った煙草を差し出してきた。
『あっ、僕、煙草吸わないんです。』
と言うか、吸ってても貰わないですと思いながらも答えた。
それからしばらくすると、オッサンは僕に軽く手を上げ、
『またな、頑張れよ。』
と言って帰って行った。
オッサンは何故僕に喋りかけてきたのだろう。
ナンパしてる後輩を不安そうに待っている僕が、危うく映ったのだろうか、それとも僕の姿が若かりし自分と重なって見えたのだろうか。
頑張れよと言うその言葉は、僕を通して自分自身に送ったエールではないだろうか。
そんな事より、またな、とはどういう意味だったのだろうか。
その後しんいち君が、
『結構アドレス聞けましたよ!』
満足感を漲らせて帰って来た。
僕は待っている間の出来事を彼には内緒にしようと思った。
これは、彼を待っている間に起こった物語であって、口にしてしまえばなくなってしまう気がしたからだ。
そして単純に恥ずかしかったからだ。
少ししっとりした僕のテンションとは裏腹に、居酒屋でも突き抜けたテンションのしんいち君だった。
![三つ目のアサト-TS3K0153.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20131105/18/mitumenoasato/ff/f1/j/t02200293_0240032012739848252.jpg?caw=800)