2010年の5月の事だ。
連休で大槌に帰って、近くの漁港で釣りしてた時。
「釣れったんか?」
と聞いてくる同年代の男が。
「駄目だぁねぇ」
と答えた。
すると、色々と聞いてきて面倒臭いなぁ、と適当に答えてたら
「兄(ぬう)さんは公園のどこの人だぁべぇ?」
と。
「おらぁ覚えったぁが」
とドヤ顔。
……何だ。素性を解ってて、カマ掛けて質問攻めしてきたのか。
性格悪い奴だな……と思いながらも、こいつの事を思い出した。
たしか赤浜の中学時代の同級生ではないか。
こいつと中学時代に連んでた奴は今どこに居るか聞いてみた。
「知らねえ名前だぁなぁ………」
と来た。
明らかに嘘だ。
「おめぇ、俺と同級生で赤浜だがなぁ?」
と聞くと
「はぁ?おらぁ兄(ぬう)さんの一個下で古学校だぁでぇば(笑)」
と言う。
一瞬、自分の記憶を疑うも、そんな訳ないと質問した。
「じゃあ、○○屋の○○と同級生か?」
と聞くと
「誰だぁべ?知らねえなぁ」
と言う。
話していて訳が解らなくなってきた。
こいつは記憶喪失にでもなったのだろうか?
それとも変な薬のやり過ぎでこうなったのか?
それとも俺がボケたのか……。
2010年、安渡の漁港でこんな噛み合わない会話があった。
最近、大槌町の犠牲者名簿を眺めてたら、そいつの名前があった。
津波で亡くなっていた。
その時は思い出せなかったものの、字面を見れば名前と顔が一致する。
それで年齢を見ると、やはり同級生だった。住所も赤浜で古学校は嘘だったのだ。
変な奴だった。
あと、その晩、近所の一つ上の人も
「釣れったんか?」
と話しかけて来たが、その人も消防団で亡くなった。
その晩、すぐそばで車で海に飛び込んで自殺した人もいた。
あの夜、海に死神でも居たのだろうかと思ってしまう。