1979年『草燃える』と、1981年『おんな太閤記』。その狭間で、まるで主人公の平沼銑次(菅原文太)の如く、"異端児"であり通した一本の大河ドラマがある。この作品の何が当時、異質だったのかというと・・・

・ 原作がなく、山田太一のオリジナル脚本。
  今でこそオリジナル脚本主流となった大河ドラマの、当時史上初となったオリジナル脚本の作品である。当時のNHK・近藤晋プロデューサー曰く、
 「明治を描いた小説はたくさんありますが、いずれも(勝者/敗者の)どちら側かに寄せて描かれたもので、両者を描いた作品はありません。私はこの両者を同時に描きたかった。(中略)適当な原作がない以上、オリジナルしかありません。」 そこで脚本として白羽の矢が立ったのが『男たちの旅路』『岸辺のアルバム』を手掛けた山田太一であった。

・ 音楽担当が宇崎竜童。
   NHK交響楽団とダウンタウン・ファイティング・ブギウギ・バンドによる、
ギンギンとエレクトリック・ギターが鳴り響くOP曲。先頭の動画の通り、もうこれは、違和感に苛まれるか、斬新さを覚えるかの二者択一で、良くも悪くも曖昧さが無い。

・ 明治維新以降の陰の部分を描いている
  秩父事件と秩父困民党、高松凌雲と同愛社、樺戸集治監、旧会津藩の移封先である斗南藩など、『獅子の時代』にて始めて描写された内容は枚挙に暇が無い。そしてこれ以降も、どの作品でも描かれていない史実も含まれている。

・ 主人公が東映ヤクザ映画の代表格・菅原文太。
  『仁義なき戦い』『トラック野郎』で映画俳優のイメージが定着していた菅原文太を起用。これは、菅原本人にとっても東映にとっても大英断だった様である。

 

 ・・・とまぁ、始まりからして異色づくめであったこの『獅子の時代』であるがそこは大河ドラマ、大久保利通、西郷隆盛、江藤新平、伊藤博文、森有礼、板垣退助、榎本武揚、渋沢栄一といった人物もしっかりと描かれている。
 

  主人公は会津藩士で明治維新後は「負け組」とされた平沼銑次、薩摩藩士で「勝ち組」とされた苅谷嘉顕いずれも架空の人物で、この二人が実在の人物との関わりを通して、明治維新の光と影の二側面に直面する・・・という内容である。
  

  当然の話として、従来明治維新の功労者として描かれた人物たちが残した功罪の部分が真正面から描かれており、単なる英雄譚はそこには無い。寧ろ、従来の「官軍史観」と「逆賊」という見方を捕らえ直すことによって、菅原文太こと平沼銑次を不条理に抵抗する主人公として一貫して描いており、一方で加藤剛こと苅谷嘉顕を明治政府に与する中央政権の人間として配しながら、西南戦争において薩摩の父・苅谷宗行(千秋実)と対峙させるなどして、明暗双方に降りかかる明治維新成功の影にある理不尽を描写することに成功している。

 ラストで秩父事件に関わった平沼銑次は戦いの果てに行方不明に、そして伊藤博文の下で国民の為の憲法草案作りに取り組む苅谷嘉顕は暗殺されるエンディングとなる訳だが、人の噂で様々な反政府運動に関わる平沼銑次を見た、というナレーションのせいか、その余韻は決して暗いものではない。

 

 当時としては前年・後年の作品と比しても視聴率は振るわなかったが、未だに歴代の大河で『獅子の時代』を最高傑作に挙げる人が多いのは、その非常に「硬派」な造りにあるのではないかと思う。


 2012年11月より2013年11月初頭までNHKオンデマンドで本編放送回の配信が行われていたが、現在は全話・総集編ともにDVDにて視聴可能。レンタル店等で見かけたら、一度はご覧になることを勧めたい。

 

1980年 大河ドラマ 【獅子の時代】データ


[放送] 1980年1月6日~1980年12月21日(全51回)
[脚本] 山田太一
[音楽] 宇崎竜童
[語り] 和田篤アナウンサー
[制作] 近藤晋 

 

初回視聴率26.2%、最高視聴率26.7%、平均視聴率21.0%

 

[出演]

 

菅原文太 (平沼銑次)

加藤剛 (苅谷嘉顕)

大原麗子 (もん)

大竹しのぶ (平沼千代)

鶴田浩二 (大久保利通)

中村富十郎 (西郷隆盛)

細川俊之 (江藤新平)

根津甚八 (伊藤博文)

 

平沼助右衛門/加藤嘉
平沼鉱造/永島敏行
平沼保子/熊谷美由紀
龍子/岸本加世子
苅谷宗行/千秋実
苅谷和哥/沢村貞子
苅谷菊子/藤真利子

森有礼/中山仁
板垣退助/村野武範
山縣有朋/江角英

高松凌雲/尾上菊五郎
弥太郎/金田賢一
瑞穂屋卯三郎/児玉清
田代栄助/志村喬

 

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大河ドラマ「西郷どん」総集編

2018年12月30日(日)NHK総合

 

第一章:薩摩 13:05~14:05
第二章:再生 14:05~14:55
第三章:革命 15:05~16:25
第四章:天命 16:25~17:35

 

【再放送】
2019年1月2日(水)NHK BSプレミアム

8:00~