この地に降りて数日。
望まずして生み出された分身の1人、ミーチェは何の為に生きているのか何をしたらいいのか分からずに魔法界を歩いていた。
「…いつの間に奥深くまで来てしまった」
気付くとそこは森の奥だった。
木々や草花等の自然に溢れ、澄んだ川が流れている。
そんな中に身を置いていると何となく抱えている悩みがすーっと溶けていくような感覚を覚えた。
「…何だか不思議な場所。同じ魔法界とは思えないような」
ただ、“自然豊か”というわけではない。
何処か神聖な空気さえも感じ、興味を抱いた彼女は更に歩みを進めていく。
すると不意に古びてはいるものの不思議な力を感じる砦の前に辿り着いた。奥には神社が見える。
「この感覚の正体はこれね」
その途端、彼女は全てを納得した。恐らくこの場所はこの神社によって護られている場所なのだろう。
「ちょっと待ってー!」
「!?」
不意に幼い声が響いた。
静かな場所だと思っていただけに彼女は驚いて目を丸くした。
と、同時に足元へとボールが転がってくる。
「あ、すみませーん!こっち投げてくださーい!」
そのボールを追うように緑の髪をした小さな男の子が走ってきた。
何が何だか分からなかったが、言われるがままにボールを投げる。
「有難うございますっ!」
その男の子はボールを受け取ると軽く会釈して明るく笑った。まるで花が咲いたかのような笑顔だった。
「あの!貴方は…!」
そのまま走り去ろうとした男の子に彼女は思わず話しかけていた。
何故話しかけたのかは分からない。無意識に近かった。
「?俺?」
「…貴方は…この神社の人?」
振り向いた男の子を見て突拍子に意味の分からない質問をしてしまう。
冷静に考えれば神社に遊びに来ていただけでは?彼女はそう考えたが、既に遅かった。
「?はいっ、此処は俺の家ですが」
「え、い、家?」
が、その答えは予想もしていなかったものだった。
「俺のお母さん、此処の神社の巫女なんです!巫女の力で自然を守ってるんですよ!」
戸惑う彼女を余所に誇らしげに胸を張ってそう言葉を続ける。
しかしこれを聞いて彼女は納得した。
「(自然を守る…巫女ね…だからこんなに…)」
「えっと、もしかして此処に来るのは初めてですか?もしよければ参拝でもどうですかっ?あ、それとも一緒に遊びますか!?」
無邪気に笑ってそう問いかける男の子。
警戒心というものがないのだろうか、それとも人懐こいのだろうか。いや、きっと両方なのだろう。
彼女は首を横に振って、
「…あまり帰りが遅くなってはいけないから」
と告げた。
「そうですか……でもまた遊びに来てくださいね!」
それを聞いて男の子は少し残念そうにしていたが、すぐに笑ってそう言うとボールを抱えて神社の奥へと戻っていった。
「………真っ直ぐで元気な子」
その姿を見ながら彼女はふとそう呟いていた。