魔法界には生まれながらに能力を持つ者が住んでいる。その能力はランダムで持つ為、望まない能力を持ち、悩まされる人も多くない。そしてそれは幼い時ほど制御が出来ず、結果的に周りからも忌み嫌われる。
「なぁ、知ってる?2組のさぁ…」
「嗚呼、あの三つ編みの女子?」
「そうそう!記憶を読んでくる化け物!」
「うっわぁー、プライバシーも糞もねぇじゃん!」
「……」
そしてその記憶を読む化け物──鈴もその対象にあった。
「鈴ー?何してんの?かーえろ!」
ぼんやりと噂話に耳を傾けていた鈴に全てを吹き飛ばすかのような明るい声が響く。後ろに振り向くと緑髪の少年が笑顔で鈴を見ていた。
「げっ、鈴…!?」
「三つ編み……もしかしてアイツ!?」
「盗み聞きなんて気味わりぃぞ!」
その途端、噂話をしていた男達が騒ぎ立てる。鈴はひたすら黙って視線を床へと落とした。
「そっちが勝手に話してたんだろ!陰口なんて性格悪いぞっ!」
しかし緑髪の少年はすぐに言い返す。
「記憶読む方が性格悪くね?」
「勝手に読んでどうせ嘲笑ってんだろ!?」
「なっ、鈴はそんな奴じゃない!お前らは鈴のこと何も……!」
「……ロン君」
ヒートアップしてきた口論をか細い声が制止する。緑髪の少年──ロンは声の方へ向いた。
「…いいよ。大丈夫だから。帰ろう」
床へと視線を落としたままロンの服の袖をそっと引っ張る。
「…でも…!」
「お願い。…帰ろ」
「!分かったよ……」
やりきれない気持ちがロンを襲ったが、袖を引く鈴の手が微かに震えているのを見て従うことにした。そうして呆然としている男達を背に鈴達は駆け出していった。
「あー!ムカつくぅ!」
夕日が照らす帰り道。ロンはやりきれなかった気持ちを吐き出していた。
「…ロン君それ何回目?」
「だってさぁー!そうやって鈴が避けられるのも今日で何回あった!?」
「…いつもと同じくらいじゃないかな。班行動で省かれて…休み時間はいつも通り1人で…」
「それをいつも通りで片すなっていつも言ってるじゃん!?」
「そう言われても…もう慣れてるもん」
そう語る鈴の目は言葉と裏腹に悲しそうな目をしていた。
「…………やっぱだめ!」
そんな鈴にロンが気付かないわけもなく、歩みを止めて鈴の両手を握った。
「え…ロ、ロン君?」
「明日からずっと鈴の傍に居る!」
「だ、だめだよっ。そんなことしたらロン君まで避けられちゃうでしょ…ロン君、お友達多いんだから私なんかより…!」
「鈴のこと避ける友達なんていらないし!」
その言葉に鈴は目を丸くし、口をつぐんだ。思わず、ロンの顔をじっと見つめてしまう。
「鈴が俺のこと考えて休み時間とか俺に近寄ってこないのも気付いてた。でもそんなの嫌だ!鈴と遊ぶの好きだし!」
「……」
「だから大丈夫!一緒に居たいから居る!鈴のこと、一生守るから!」
太陽よりも眩しく、真っ直ぐな笑顔を向ける。そんな笑顔に鈴は何も言い返せなくなった。
そして次の日から言葉通り、ロンは鈴と共に行動することになる。しかし鈴が恐れていた通り、ロンも仲間外れとなる日々が続いていった。
そんな日が続いたある日だった。
「皆あっそぼっ!」
いつも通り鈴を連れてクラスメイト達の元へ行く。いつもならすぐに断るが、この日は様子が違っていた。クラスメイト達は顔を合わせ、暫く考え込んで、
「…あのさ、ロン」
一人が話を切り出した。
「えっ…?」
「いつも思ってたんだけど…何でそんな鈴さん贔屓なの?」
「弱み握られてるの?」
「可哀想だからとか?」
話を切り出した一人に乗っかるかのように皆口々に話し出す。
「ちょっと皆、何言って…俺はそういうんじゃなくて」
「正直さ」
反論しようとしたロンを遮ってまた一人口を開く。
「正義の味方みたいな…そういうの嫌かも」
「!」
言い返そうと言葉を探すが、何も出てこない。偽善的な行動なのかもしれないという自覚はしていた。鈴は本当に皆の輪に入りたいのか、自分の行動は合ってたのか。そういう思考が脳を巡る。
「……あの…っ」
そんな思考を遮るかのようにロンの後ろから小さな声が響いた。
「……わ…私…」
「…鈴さん?」
「…私の力って…ほんとに…嫌われて仕方ないものかもしれない…けど……」
「……」
「私、抑えれるよう…頑張るから…皆と……仲良くしたい…です」
振り絞るかのような声。体も小さく震えていたが、顔だけは強く皆の方を向いていた。
「…鈴…!」
「…ごめんね、ロン君。でも…もう大丈夫。頑張れるよ」
驚くロンを見てゆっくり微笑む鈴。そしてまた皆の方へ向き直る。
「遊びに……入れて?」
その言葉を聞いてクラスメイト達はまた顔を合わせ、
「…なんか…ごめん」
「勝手に怖い人だと思ってた…っていうか…」
そう呟いた。
「!う、ううん、私こそ…えっと…」
「一緒に遊ぼっか。鈴さんもロンも」
「あ……、…うんっ…!」
──その日の放課後。
「鈴ほんっと凄かったぞ!」
「お、大袈裟だよ…」
「いやほんとに勇気というか、かっこよかったというか!!」
いつもの帰り道を歩きながら興奮冷めやらぬといった表情で鈴を褒め称えるロン。鈴は少し照れ臭そうにしていた。
「俺あの時言い返せなくて…まだまだ男じゃないなーって思っちゃった。偉そうに一生守るなんて言っちゃってちょっと恥ずかしいや」
そしてふと苦笑して自分を責めるロン。恥ずかしそうに目を伏せる。
「…それは違うよ」
「え…?」
「…ロン君がそう言ってくれたから。ずっと傍に居てくれたから。だから勇気が出たんだよ」
ロンの前に立ち、歩みを止める鈴。夕日が鈴の背を照らして橙色の髪が一層輝く。
「…もう一つ…勇気出していいかな」
微笑みながらロンを真っ直ぐ見据える。そしてゆっくり言葉を吐き出した。
「…好きだよ、ロン君。恋人になってください」
夕日が二人を優しく包む。この日は何だかいつもより温かく感じたのだった。