少年は孤独だった。否、正しくは孤独ではなかったが、それを確かめる術を知らなかった。
「玲?」
「……?」
「お父さん、今日も遅くなるらしいの。お母さんもこれから仕事だから…」
「…そうなんだ」
少年の名前は玲。幼い顔つきであるものの、何処か大人びた雰囲気を持っている。しかしその雰囲気は子どもらしくいることを諦めた結果のようにも感じられた。
「鈴は今日ロン君達の家にお世話になるらしいけど、玲も…」
「大丈夫。何かあるもの食べるから」
「…一応、作り置きはあるから」
「うん、知ってる」
「何かあったらロン君のお母さんに電話して…」
「うん」
言われ飽きた…と思いながらも、返事をする玲。そして玲の母は不安そうに玲を見つめる。
「…ごめんね、いつも一人にして」
「何で謝るの。仕方ないことでしょ」
「…玲…」
「…早く行かないと、お仕事遅刻するよ」
「え、ええ…じゃあ…行ってくるわね」
「…行ってらっしゃい」
母が出た後の部屋にはただただ静寂に包まれて、玲はソファへ伏せると、
「……少し前までこんなことなかったのに」
と小さく声を漏らした。
玲には鈴という双子の姉が居る。そして両親が仕事の日は鈴と共に生活をしていた。それがある日突然変わってしまったのだ。
玲達の近所に住む幼なじみのロン。彼と鈴が恋人関係になったあの日から。
「……別にいいんだけどさ」
そう呟きながらも心の中には黒い何かが渦巻いていた。
───
「玲…昨日、大丈夫だった…?ごめんね…最近一緒に居れなくて……」
翌日の朝、心配そうに声を掛けてきたのは鈴だった。玲は小さく頷く。
「慣れてるから」
「……ほんとに?」
「…」
「鈴ー!」
考え込んでいた玲の元に明るい声が響いた。その声の方を見るとロンの姿があった。
「あ…ロン君。昨日は有難う」
「うん!あっ、玲も居る!やほー!」
無邪気に笑いかける。悪意は全くなく、ただ、ロンは玲とも仲良くなれるとそう信じ込んでいた。
「……っ」
しかし玲は何も返さずにその場から逃げるように去った。
そしてこの『黒い感情』が何なのか、理解したのだ。
「……ボクを独りにした、鈴を奪った、アイツを許さない」
走り去った先───ロンの住む神社の裏で手に力を込めながら初めて感情を口にした。否、ここまで自分でも認識していなかった。
そしてこれが嫉妬と復讐の始まりだった。
「玲、何処に行っちゃったんだろ?」
「……なんだか……様子がおかしかった……」
「…俺探してみるっ!鈴は帰ってて?お家戻ってるかもだし!」
「うん…分かった。またね」
「うん!また明日!」