中小の医療機関であれば、院長自らが率先して経営の舵取りを行っていくことになります。
しかし、院長は医療のプロフェッショナルではあっても、経営のプロではありません。
常に悩み、様々な情報を収集して自院の課題解決策を講じようとします。
そこには落とし穴がいくつもあることに気付かずに…。
<事例:大きな勘違い ~ある診療所の院長の苦悩の日々~>
東京都内のある診療所。
開業して5年が経過、医療法人化し分院もオープンし順調に患者数も収益も伸びています。
その大きな要因は、院長のカリスマ性にありました。
医師としての技術も高く、患者からの信頼もあつい。まさに、成功事例といっても過言ではありません。
しかし、その内情は全く異なっていました。
スタッフの入れ替わりが激しい状態が続き、分院オープン後はそちらの院長のモチベーションの低さも問題となり、定着率の悪化が加速していきました。
そのような状況を危惧した院長は、これまでの拡大路線から一転。
スタッフ定着の重視に方針を切り替えることを決意し、外部から専門コンサルタントを招き、本格的に改革に取り組み始めました。
それから3ヶ月後、医師の経営勉強会で、院長は次のようなことを耳にしました。
「現在の診療所において、スタッフは所詮、短期間の腰掛でしかない。そうした中で診療所経営を進めていくには、人の入れ替わりがあっても動じないマニュアル整備を早急に取り組むべきだ」と。
院長はその話に心を動かされました。
改革により徐々に離職率が低下してきたものの、想定していた効果には程遠く、収益の伸びにも幾分陰りが見え始めていました。
方針転換を決めた院長は、当初予定していた教育訓練計画を全て白紙にし、別のコンサルタントを招きました。
それから半年。診療所には徐々にマニュアルが整備されはじめました。
しかし、作成したマニュアルの管理や定期的なメンテナンスを行なう担当者の割振り…、
通常業務に新たに加わった作業により、業務の過重度はピークを越えていました。
当然ながら、一度改善を見せていた離職率は従前と同水準にまで戻ってしまったのです。
マニュアル整備にかかわる過剰な付加業務による職員のモチベーション低下。
そして、離職者の増加とサービス品質の低下。
この状況をみた院長は、再度人材育成を計画的に実施しようとスタッフに説明します。
しかし、この状況では研修等は実施できないとスタッフが不満を漏らしたため、またまた別の施策をスタートさせることにしました。
度重なる院長の方針転換に、スタッフは困惑を隠せずに、院長との信頼関係は損なわれ、コミュニケーションも機能しなくなってしまいました。
事例の医療機関は、院長のカリスマ性による集患で順調に成長しているかにみえました。しかし、内部環境の整備が疎かになりスタッフが離れ、空中分解寸前の状態にまでなっています。その様な状況下であっても、院長はまだ周囲の情報に流され、短期間での方針転換を繰り返してしまっているのです。
開業から経営が安定するまでは、あらゆる施策を講じてがむしゃらに進んで行きます。
そしてある程度軌道にのってくると、今度は仕組みを強化していくことも必要になってきます。成長するにつれ、院長が考えるべき経営課題は山積してきます。
それに対し、何らかの施策を講じていくのは当然必要になりますが、「何を」「どの」タイミングでとり入れるかは、まさに経営手腕になってきます。ただ、そこに欠かせないことが1点あります。
それは「3~5年後のビジョンが描かれているか」という点です。
なぜなら、上述した仕組みには必ず「組織」と「人材」が必要になってくるからです。
特に人材育成には中長期的な視点が求められます。カンフル剤による刺激は一時的なモチベーションを引出しますが、定着には至りません。人材育成には組織や制度構築が必ず紐づいているため、1年から3年程度の期間でしっかりとした基盤固めが重要になってくるのです。
開業当初の医療機関であったとしても人材育成の視点を持ち続けることが必要になります。
ビジョンの重要性は理解していても、現状が場当たり的になっていませんか?
医師としての信念を持たれている様に、経営者としての信念を明確にし、
ぶれない軸を確立して下さい。