羽仁進監督『愛奴』 | みつ梅の古今東西かべ新聞

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浪曲、歌舞伎を中心に観劇の感想を書かせて頂いております。
拙い文で恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。


『愛奴』
●1969年、羽仁プロ作品。松竹配給。
●カラー、ヴィスタビジョンサイズ、98分。
監督…羽仁進
企画・製作…篠ノ井公平
原作…栗田勇
脚本…栗田勇、羽仁進
撮影…奥村祐治
映像協力…石岡瑛子
美術…平田逸郎
録音…久保田幸雄
照明…海野義雄、辻勇介
編集…羽仁進、竹村峻司
出演
末政百合
河原崎健三
額村喜美子
増田貴光
田沼瑠美子
白井健三郎
辻村ジュサブロー
九重京司
太田喜代子
松本章
植草甚一
新宿新次
支那虎




高校の頃から見たいと思いながらも長らく上映の機会がなかった羽仁進監督の『愛奴』を見て来ました。

『初恋・地獄篇』のドキュメントタッチの演出やモノクロ映像の美しさに感銘を受け、次作『愛奴』にも感心を持ち、古本屋で『愛奴』の批評が載った「キネマ旬報」を買いスチールや批評を読み、どんな幻想的な映画なのだろうかと想像していました。
憧れの映画をやっと見れて感激はしましたが、よくわからない映画、だから何?と言うのが正直な所です。

『教室の子供たち』『絵を描く子供たち』『不良少年』『彼女と彼』『ブワナトシの歌』など記録映画や劇映画の佳作を世に出した羽仁進監督ですが、人間関係や人物の描き方が中途半端で、盛り上がりのない作品でした。

原作は江田和雄率いる劇団人間座で上演された栗田勇の同名戯曲。大当たりを取り、6度も再演されたそうで、僕にはわかりませんが、当時の観客を惹き付ける何かがあるのだろうと思います。

しかし、決して武智鉄二の作品のような退屈さはなく、つまらないとも思わず、1時間40分を見せてしまうのは、さすが羽仁進だと感服致します。ラブシーンを極端なアップで、美しく見せようとしたり苦心の跡が伺えますが、東京の風景を撮した描写の方が映像美を感じました。

若かりし頃の河原崎建三が主演ですが、『儀式』ほどの強い印象は受けませんでした。当初は荒木一郎が予定されていたそうですが、諸事情で降板されたそうで、荒木一郎ならまた違った作品になっていたでしょう。

愛奴を主人公に引き合わせる謎の夫人を左幸子の妹で、後に義理の兄であった羽仁進と再婚し話題を呼んだ額村喜美子が演じていますが、息を飲むような美しさで圧倒されました。『初恋・地獄篇』でも印象的な役で出ていましたが、ここではスクリーンに登場する度に惹き付けられ、すっかり魅了されました。

タイトルロールの愛奴を末政百合という新人女優が演じましたが、舌ったらずな上にその辺に居そうな普通の子で、今一魅力に欠けました。
主人公が思いを寄せる同じサークルの仲間の田沼瑠美子が、また美しくオーラが漂うだけに末政百合が霞んでしまった気がします。

夫人の執事を演じた九重京司は短い出番ながらも強く印象に残る芝居を見せております。
また、主人公に付きまとう刑事を人形作家の辻村ジュサブローが演じているのに驚きました。カメオ出演かと思いきや、出番や台詞が多く、愛奴とのラブシーンもやっております。
他に増田貴光、植草甚一、白井健三郎などが出演。こういうキャスティングも羽仁進監督らしいです。

キネマ旬報では、音楽に松村禎三、矢代秋雄 、夫高尚忠(尾高尚忠の誤植か?)、 由紀さおりの名がありますが、既製の作品を使ったようです。
余談ですが、画面のサイズがこの時代にヴィスタサイズなのは珍しいと思いました。

念願叶って『愛奴』を見られて良かったですが、一度見れば満足です。