東家一太郎「十年の節目記念浪曲会」 | みつ梅の古今東西かべ新聞

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浪曲、歌舞伎を中心に観劇の感想を書かせて頂いております。
拙い文で恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。


~東家一太郎 一会 いち・かい 第5弾~
「十年の節目記念浪曲会」
◎2017年7月8日(土)・13:00開演。
◆於、木馬亭。

『野狐三次~親子対面』
東家一太郎、曲師…東家美
『曲馬団の女』
田辺鶴遊
『紋三郎の秀』
東家浦太郎、曲師…東家一太郎
~休憩~
『オオカミ王ロボ』
東家一太郎、曲師…東家美
「対談」
今泉吉晴(動物学者)、東家一太郎
~休憩~
節劇『阿漕ヶ浦』
ー三場ー
口演…東家一太郎
曲師…東家美
美術…北葛飾狸狐
出演
東家浦太郎
猪馬ぽん太
東家孝太郎
東家恭太郎
金澤光春
北葛飾狸狐
田辺鶴遊

司会…猪馬ぽん太(浅草21世紀)


東家一太郎さんの舞台を初めて拝見したのは8年ぐらい前のこと。当時はまだ私も浪曲について詳しくなく浪曲師は年輩の人しかいないと思い込んでおりました。ですので、舞台に一太郎さんが登場した時は若い人も居るのだと驚くと同時に同世代の人がいるのだと親近感を持ちました。

一太郎さんの芸と人柄に惚れ込んで舞台を拝見しておりますが、美さんの三味線を得てから、ぐんと腕を上げられ、年明けをしてからさらに芸を磨かれ、若手のトップランナーとしてご活躍をされておられ、同世代のファンと致しまして大変嬉しく思います。


一席目の御家芸である『野狐三次』の三次と伊賀守の親子対面は、恩師東家浦太郎師匠の芸をしっかり受け継がれながらも一太郎さんならではの味を見せ、開幕から全速力でダッシュされる真剣勝負なお姿に感動しました。
笑いで和ませ最後に親子の情愛で締めるこの一席は浪曲の醍醐味をたっぷりと味合わせて頂き、浪曲の面白さを満喫してくれました。

二席目は『シートン動物記』より一太郎さんご自身が脚色された『オオカミ王ロボ』は、シートンがロボを探し出す家庭が岡本綺堂や野村胡堂の捕物を読むような雰囲気があり、大師匠の東家楽浦師匠(筆名野口甫堂)の流れを感じさせる構成の巧みさがお見事です。
ロボを誘き寄せるためにロボの恋人を囮に使う所、ロボが亡くなった後のシートンの心の痛みが節によく現れ、聴き終えてから心の中を寂しい風が過り、静かに余韻に浸りました。
二席を弾かれた美さんの三味線が秀逸であり、三筋の糸で浅草や江戸の町並みやアメリカの乾いた土の匂いを現し、一太郎さんと観客のイメージをひとつにするサポートをされました。

田辺鶴遊先生と猪馬ぽん太師が十周年記念の舞台を彩られました。仲間をお祝いするお心が現れ、和やかな気持ちになりました。
一太郎さんと親交のある動物学者今泉吉晴先生と『シートン動物記』の対談があり、会のアクセントになりました。今泉先生のお話がとても興味深かったです。


東家浦太郎師匠が一太郎さんの三味線で『紋三郎の秀』を読まれ、弟子に胸をかされました。
浦太郎師匠の『紋三郎の秀』を久々に拝聴致しましたが、いつに変わらぬ名調子、百万ドルの浦太郎節に酔わせて頂きました。昔の仲間の窮地を救い悪党一味を退治する所は圧巻であり、胸がすっとしました。
一太郎さんの三味線も素晴らしく師弟の絆の強さ、信頼の思いが伝わり、胸に染みる舞台でした。

大喜利の節劇は、浪曲『阿漕ヶ浦』を節劇に仕立てた夏芝居らしい一幕で、大いに客席が沸きました。
浦太郎師匠も役者として出演され、浪曲とは違う味わいでファンを魅了されました。存在その物が芸であり、浦太郎師匠はやっぱりすごいなと改めて思いました。
これを見られなかったファンのあなた、人生において少し損をしましたよ。


最初から最後まで全てが目玉の内容で、サービス精神満点の十周年の記念に相応しい会となりました。
上手い芸人やおもしろい芸人はたくさんいますが、一太郎さんと美さんは本物の芸を受け継がれている数少ない方です。これからもお二人で頑張って次世代の浪曲を担って頂きたいとエールを送らせて頂きます。