「東家一太郎雷門会」6/16 | みつ梅の古今東西かべ新聞

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浪曲、歌舞伎を中心に観劇の感想を書かせて頂いております。
拙い文で恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。


「東家一太郎雷門会」
~シーズン5~
◎2017年6月16日(金)・19:00開演。
◆於、日本浪曲協会大広間。

『神田松』
東家一太郎、曲師…馬越ノリ子
『恩讐藤戸渡り』
東家一太郎、曲師…東家美
※茶話会あり。

大江戸線の蔵前から田原町の浪曲協会へと向かうなら、浅草線に乗り換えるよりも歩いた方が早くラッシュの混雑や乗り換えの手間がなく気分も良いです。

偶数月に浪曲協会で開催される浪曲界のホープ東家一太郎さんの雷門会へ向かうため、蔵前から真っ直ぐ延びる裏通りを歩いていますと、夕げの仕度の包丁の音や子供さんの声が近隣の民家から聞こえ、また梅雨を忘れさせるような夏の夕空が辺りを茜色に染めて、浪曲を聴きに向こうのにお誂えな雰囲気です。
観劇はチラシを手にした時から始まっております。





会場に着けば客席にはお馴染みのあの顔この顔が見え、親戚の家に遊びに来たような和やかな気持ちになります。御贔屓に加え、新たな浪曲ファンで賑わいを見せ、開演前にはほぼ席も埋まり、いまかいまかと開演を席で待ちます。

さて、この日の演目は師匠譲りの『神田松』と『恩讐藤戸渡り』の二席を読まれましたが、本年十周年を迎える一太郎さんの芸に対する並々ならぬ意気込みが現れた好演となり、温かく見守る仲にも芸には厳しいファンを唸らせました。

『神田松』は源太郎夫婦に引き取られた少年松五郎の親子の情愛と絆を描く珠玉の一編で、師である東家浦太郎師匠も得意とする作品です。親が子を殺し子が親を子が殺すなど悲しいニュースが多い今こそ、こういう話を多くの方に聴いて頂きたいものです。
今回の口演で一番感動したのは松五郎が近所の子供らに乱暴を働いたのが、源太郎をバカにされた悔しさからと打ち明ける所です。松五郎は口では大人にも負けない利発さがありすが、それは親と死別し一人で生きて行くために身に付けた知恵であり、明るさの根底に寂しさを感じます。近所の子供達に源太郎をバカにされた時の怒りは、実の親をバカにされた以上の思いが込められていると思いました。お互いに遠慮がどこかにあったのが、この出来事で本当の親子になれたのがわかり、親子と一緒に泣きました。これぞ浪曲の醍醐味であり、人物の心を丁寧に現す一太郎さんならではの名演です。
市井の人々の生活や長屋の情景を生き生きと浮かび上がらせているのも良かったです。
三味線は盟友馬越ノリ子さんで、鮮やかな撥捌きでした。





二席目は源平合戦において佐々木盛綱が漁師に浅瀬を案内させ勝利を納めた藤戸の合戦に材を得た『恩讐藤戸渡り』を読まれました。
『平家物語』では男は口封じのために殺されたと記されておりますが、浪曲『恩讐藤戸渡り』では男が少年に置き換えられ、盛綱に斬られ崖から突き落とされた後に海で助けられ、医師として立派な成長した姿で盛綱の前に現れる設定になっています。
盛綱への復讐を誓いながらも重い病の盛綱を前にして、復讐よりも医師としての使命を優先し自らの医術の限りを尽くし助ける所に感動を受けました。血には血をという復讐の連鎖を断ち切り、憎しみを成長へのパワーに変え、憎き敵にもその憎しみがあっからこそ成長が出来たと感謝を語る所に強く胸を打たれました。
これは日常においても通ずることで、生きていればこいつだけは絶対に許せないと殺意をも感じる憎い奴が必ずいますが、こちらがどんなに憎んでも相手は何とも思ってないので、憎むだけバカみたいであり無駄な労力に終わります。しかし、あいつを見返してやると自分を成長させることの力にすれば無駄にならないで済みます。そんなことをこの一席から教えられました。
一太郎さんの節と啖呵が花形歌舞伎にも負けない高尚さと迫力があり、美さんの三味線が人物の心を効果的に現し、特に関東バラシの所は掛け値なしに絶品で、お二人の師である東家浦太郎師匠と伊丹秀敏師匠の名コンビを彷彿させました。

浪曲界のホープである一太郎さん、美さん、ノリ子さんのご活躍は頼もしく今後の更なる飛躍を期待致します。