成瀬巳喜男監督『女の中にいる他人』 | みつ梅の古今東西かべ新聞

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浪曲、歌舞伎を中心に観劇の感想を書かせて頂いております。
拙い文で恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。


『女の中にいる他人』
◎1966年・東宝作品。
◆モノクロ、スタンダードサイズ、101分。
●監督…成瀬巳喜男
●脚本…井手俊郎(エドワード・アタイヤ原作『細い線』より)
●製作…藤本真澄/金子正且
●撮影…福沢康道、●美術…中古智、●音楽…林光、●録音…斎藤昭、●照明…石井長四郎、他。
●出演
小林桂樹、新珠三千代、三橋達也
草笛光子、若林映子、長岡輝子、加東大介
藤木悠、十朱久雄、稲葉義男、関千恵子、中北千枝子、一の宮あつ子、伊藤久哉、他。

名匠成瀬巳喜男監督が晩年に撮ったミステリー作品。
親友の妻と関係を持った男が情事の中で誤って殺してしまう。良心の呵責に苛まれた男は、妻に告白をするも家族を思い自首を思いとどまらせられてしまう。思い詰めて、親友に妻を殺したと打ち明けるが、親友は最初は怒りを見せるも男のことを思い許す。苦悩が深まり遂に自首を決意するが、家族を守りたい妻に自殺に見せかけて毒殺されてしまうというお話。

家庭や女性を描いて来た成瀬巳喜男監督ならではの作品で、男の妻を演じる新珠三千代さんの描き方に引き付けられました。親友の妻を殺したのが自分の夫と知るシーンの表情や夫を殺そうと決意する時の冷酷な眼差しなど印象に残ります。偏見かも知れませんが、女性は大切な家族や子供を守るためには、どんなことでもするものと感じました。

小林桂樹さんが罪の意識に苛まれる男を淡々と演じられ、名演を見せましたが、この男は自分のことだけしか頭にないように見えてしまい、役にはあまり好感が持てませんでした。

男の親友を演じた三橋達也さんが熱い芝居を見せられました。男から妻を殺したことを打ち明けられて怒る所は、妻を殺されたことよりも信じていた男に裏切られたことへの怒りを見せ、男を憎むことが出来ない複雑な芝居が感動的でした。

音楽が常連の斎藤一郎さんではなく、林光さんが担当されていますが、林さん独特のスコアでドラマを盛り上げていて、成瀬作品に新しい風を取り入れるのに成功したと思います。

モノクロスタンダードの画面が映し出す鎌倉界隈の描写が美しかったです。