準決勝:対ライオー


押しも押されもせぬ強豪である。名門・上尾高校野球部OBを中心に結成されるライオーは、名前はヘンだが実力は市内屈指。

結果は1-0でサヨナラ勝ちした訳だが、随所にスキのないレベルの高さを痛感させられた。
以前2-6で負けたときより、勝った今回の方がはるかに強さを感じたのはどういうわけか。

まず打力。
1番から9番まで、いわゆる安パイといえるバッターは一人もいなかった。8人が右打者だったが、セカンドを守っていてもその圧力はスゴいものだった。どの打者も振りがシャープで、速球にも変化球にも見事に対応。キッチリとミートしてくる。

ウチのエース・新居くんも、このプレッシャーにはさすがに消耗させられたようだ。絶対に泣き言を言わない男が8回、大腿をつるというアクシデントに見舞われた。初めて見る姿だった。

初回2死2塁からレフト前に持っていかれた。打たれた瞬間失点を覚悟したが、これをレフト赤尾くんがダイビングキャッチ。
正面の打球に対して真っ直ぐ前に飛ぶ。外野手としてこれ以上難しい技はない。
神がかり的な好捕で、先取点を奪われずに済んだ。

結果、このプレーが試合を決めたと言っても過言ではない。
敵は「いつでも点を取れる」というゆとりの中にありながらも、「あれっ?いつもと違うぞ」というイヤな予兆を感じたに違いない。


相手投手は元上尾高校のエース。どこかで見た顔だなぁと思ったら、シニアリーグ時代の後輩・登坂くんだった。
中学のときはあどけないカワイイ顔をしていたのに、今や痩身ながらも身長185cm以上はあろうかという大男になっていて驚いた。

スピードのある直球は手元で浮き上がってくるような切れ味。これに加えて真下に沈むようなタテのスライダーが実にやっかい。主な球種はこの2つだったと思うが、何しろコントロールが抜群であった。どこにどう投げれば打者がイヤがるかを熟知しているようなピッチングの「型」を持っていた。

ボクも4打席目には見事この型にはめられ、膝元の変化球を振らされた後、外の真っ直ぐで見逃し三振を取られた。
「手玉に取られる」とはこういうことだ。


そして走塁面。
出るランナー出るランナーみんな盗塁を狙ってくる。二遊間を守るボクと高山くんは最後までこの対処に神経をすり減らされた。
鋭い打球への備えに加えてランナーにも気を配らなければならない。内野手として息をつく暇はなかった。
しかし、牽制球のテクニックは超一流のウチのエース。大きめにリードを取る走者に対して、終わってみれば牽制アウトを4つも取った。

牽制で刺されると、攻撃側チームは確実に意気消沈する。一方守っている方はグイッと流れを引き寄せることができる。
この試合を通じて、野球には「流れ」というものが確かに存在するなと尽々実感した。

取れた!と思った点が好捕に阻まれ得点できない。

ナイスバッティングで出塁したランナーが牽制で刺される。

加えて、序盤から審判の微妙な判定が何度かこちら有利に働いた場面があった。
これに対して露骨に文句を言い、不満な態度でアピールする相手チーム。
ウチのチームでは禁忌とされている振る舞いだ。ベンチの雰囲気がいいはずはない。


お互いにスコアレスで進む中でも、流れは確実にウチにあった。

最終回、相手はこの試合は引き分け・クジ引きと読んだのか、好投する登坂くんを代えてきた。
明らか準備不足のリリーフ投手。こういう試合展開は先にベンチが動いた方が負け、というのも野球のセオリーだ。

投手交代と聞いた瞬間、チャンス到来と思った。
流れはウチにあり、相手は引き分けを意識して先に動いた。

そう考えると、高橋くんのサヨナラヒットは出るべくして出たと言えるかもしれない。

牽制がうまいと感じたら、無理に盗塁を狙うのでなく進塁打でランナーを進める。バントを使って内野をかき回す。審判の判定にはどんなに不服であっても態度に出さず、審判を味方につける意識を持つ。
もし相手にそういった工夫があれば、きっとこの試合は負けていたことだろう。

普通にやれば、10回戦ってせいぜいウチが勝てるのは2~3回だろう。
それぐらいの実力差はあった。
しかし、本番で勝ったのはウチである。
実力が上の相手にでも、戦い方はある。