真っ白なカーテンで囲まれた半畳ほどの狭い前室―。
ときおり看護師が入ってきては麻酔の点眼をさされ、目は閉じておくようにと言われる。この状態で待たされること20分。
静寂のなか、聞こえてくるのはスタッフの足音とレーザーの機械音のみ。
緊張するなという方が無理だろう。
―ではこちらに、
と案内されたOpe室は、歯科の診療台にそっくりであった。仰向けに寝かされると、顔前にものものしい機械が下りてきた。輪っかのようなもので眼球を固定され、まばたきができないようにするための器具が、上下まぶたの下に挿入される。
ボクに与えられた指示はただひとつ、機械の真ん中に見える緑の光を見続けること、それだけだ。
―照射しまーす、の声。
まずは角膜上皮をめくってフタのようなもの(フラップ)をつくる工程。なぜレーザーを当てることで眼の表面の皮をめくりあげることができるのか甚だ疑問ではあるが、たった15秒で事は終了した。
痛くはないが、眼を押される感じが不快であることと、急に何も見えなくなる瞬間があったりしてなかなかに恐かった。がんばって緑の光を見続けた。
―では起きてくださーい。
フラップ作成が完了すると、何と歩いて部屋を移動するという。
まだ皮をめくられただけで視力は得られていない。しかもものすごいカスミ眼で、世界は白くボヤけまくっている。何で同じ部屋じゃねーんだよ、と思いつつ、フラフラと歩く。ほんの数メートルの移動であったが、視覚障害者や白内障の年寄りの気持ちがちょっとわかった気がした。
別室にも同じような診療台があり、また仰向けにされる。頭元では何やら数字を音読しながら、PC入力しているようだ。再び眼の準備が進められる。
結局、レーシック手術で一番恐くて不快なのは、この「準備」だと思う。
何をされているかわからない状態で、動いてはいけないと指示される。レーザーという正体不明のモノへの脅威があるから、指示に従わないわけにはいかない。人は恐いと反射的に眼を閉じるが、それさえ抑制されているのだから眼をつぶってやり過ごすこともできない。おっかない想像をかき立てる準備の始終を全て目の当たりにせざるを得ない、これこそが眼科治療の恐怖の正体といえよう。
―はい、じゃあいきますねー。
いよいよ角膜の屈折角度を矯正するレーザーが照射される。このレーザーも時間は15秒。医師がカウントダウンしながら当ててくれるので、照射中は案外落ち着いていられた。
しかし、けっこうなボリュームの機械音に加え、焦げるような臭いが鼻をついてくる。まさに今、自分の角膜が焼かれているのだと実感する瞬間だ。
―終了でーす。
機械が外されると、いきなり視力が良くなっていることに気づいた。まだ白くかすんではいるものの、天井の模様がはっきりと見えた。
嬉しかった。