仕事の合間に阿佐ヶ谷まで足を延ばし、昔住んでいたアパートに行ってみた。
相変わらずあの頃のまま、しみったれたたたずまいがそこにあった。
ちょうど10年前、ボクはこの小汚い部屋にいた。
日中は病院で助手の仕事、夜は学校。
給料は家賃と学費でほとんど消え去り、生活は貧困を極めた。
夜中に疲れきって帰宅すると、ゴキちゃんが交尾したり、バカでかい蛾が産卵したりしていた。
「人の家で何しとんねん」とツッコむ気力さえなかった。
近所を少し歩いてみると、次々と記憶がよみがえる。
懐かしくて泣けてきそうだった。
金も地位も、守るべき存在もなく、自分の事だけ考えて生きていたあの頃―。
色々な意味で荒みきっていた。
でも、あの頃はあの頃でよかったのかな、とも思う。
戻りたくはないけど。
地に足をつけて人間らしい暮らしをできている今に、そしてそれを支えてくれている妻と子供達に、感謝したい。