患者と屋外歩行をしていたら、道端でジーさんが頭から流血してうつ伏せにぶっ倒れていた。

患者を適当なベンチに座らせ慌てて駆け寄る。

「ダイジョブっすか!?」

「ああ、全然ダイジョブ。」

意外にもカラっとした口調で答えるが、どう見てもダイジョブそうではない。

地面にはけっこうな量の血が流れ出している。

脈を確かめ、表情を観察した。とりあえずジーさん意識はしっかりしているようだ。

「悪いけど、家に電話をしてくれる?」といい、おもむろに自宅の電話番号をつぶやきだしたので

「ちょ、ちょっと待って、その前に起きない?」と制した。

抱き起こして傍らのベンチにすわらせると、ジーさんの右ほっぺがパックリと切れていた。

でも思ったより傷は軽そうだ。

「転んじゃったよ、へへへ」と茶目っぽく笑うジーさん。

何となく脱力しつつ、ジーさんの家に電話をかけると、10分くらい経って娘さんが車イスを持って迎えに来た。

娘さんは開口一番「ジーさんまた転んだのっ!?だから一人でブラブラすんなって言ってんじゃない!まったくもう~」としかりつける。そしてボクに「どーもご迷惑おかけしてスミマセンでした~」と詫びながら、ジーさんを乗せた車イスを自宅に向けて押していった。

いかにも「プンプンっ!」といった感じの娘の背中を見送っていると、ジーさんがくるっとボクを振り返って、

「ありがとね~」

と手を振った。

血にはまみれているが、いい笑顔だった。


歳とったって、一人になりたい時って絶対あるよなぁ。


転んでもいいから、また一人で散歩にいきなよ、ジーさん。