『みちゅと、ほんまに姉弟やったらよかったのに』


こんな関係になる以前、仲間たちから『姉弟みたい』と揶揄されたときに、よく るみこ はそうもらしていた


『ええやんか、仲良くしてんねんから。血の繋がりがないだけで姉弟みたいなもんやんか』

と言う俺に

『私な・・・ほんまはな、みちゅ・・みたいな・・・かわいい弟がほしかってんー!』


そんなことを言って、二人でじゃれ合っていた

仲良し姉弟『ごっこ』をしていた・・・

俺は彼女とのこんなやりとりが大好きだった・・・。










帰国後も俺と るみこ の関係は続いた


学校では『栗本っちゃん』と呼んで今まで通りを装う


放課後、俺がバイトの日と土日以外は予定がなければほとんど俺の部屋で過ごした


付箋紙

事務用品でよくある、貼ってはがせる四角い紙


これが俺と彼女の学校での連絡手段


もともと仲が良かったため怪しまれることはなかったが、実習の合間や休み時間、彼女はそれに短い言葉で記し、放課後の予定を伝えてきた


『今日イケる』『ダメ?』『残業になった』『楽しみ』『待ってて』・・etc


大抵はノートやプリントに貼って渡されるそれ
彼女の綺麗な文字で書かれたそれを受け取った俺は、視線で短い合図をする


綺麗な字を褒めたことがあった


『書道2級やねん』


得意気に語る彼女だったが、俺にはそれが自慢になるとは思えなかった


そして、俺の部屋で二人だけの時間を続けた


俺は、彼女の身体に溺れた
いや、足掻いていただけかもしれない

幸せを望んだ相手に裏切られたと思い込み、もう人を好きにはならないと決めた俺

自分を好きだと言う相手と一緒にいることで、満たされないものを埋めようと、寂しさを誤魔化そうとしていた


二人だけの時間、るみこは自分のすべてを与えてくれるかのように、俺を愛してくれた


俺の声、俺の反応をみながら、自分の悦びよりも俺を悦ばすために一生懸命だった


今思うと、俺の女性の愛し方はすべて彼女に教えられたような気がする


自分の悦びよりも相手の悦び
相手が感じるほどに自分もより深く感じる


そんな愛し方をしてくれる女性だった




俺の作るパスタを嬉しそうに、美味しそうに口いっぱいにほおばり

『お店で食べるみたいやんっ!』

とたくさん褒めてくれた



嬉しかった

自分が認められることが


心地よかった

自分が求められることが



いつしか俺は、自分で決めたルールを破ろうとしていた

好きにならなければ、傷つかない

与えないかわりに、求めない



求めてしまった・・・・・・すべてを





こんな関係が始まった当初、俺はるみこによく聞いた

『俺と旦那、どっちが好き?』

るみこはいつも、困った顔をして俯いていた・・・


もうどれくらいの時間をるみこと過ごしただろう?


俺は壊してしまった


自分の中で膨れ上がる想いに堪えきれず、壊してしまった


自分で決めたルールを壊してしまった



自分が傷つかない為に決めたルール


自分が失わない為に決めたルール




そのルールを自らの手で壊したとき


俺は・・・


大切な人を傷つけることを知った


大切な人を失うことを知った



知った時にはもう・・・


・・・遅すぎた