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しばらくするとそのお店に来てくれた。


嬉しかったのに色々な感情が混ざり合って素直になれず優しくできなかった。

これも後悔の一つであり友達にも注意されたのだった。

1人知る人のいない所に来てくれたのに倫也もきっと何か感じていたはず

それから何時間経ったのだろうか。


お酒も一滴も飲まずに私達を車で家まで送ってくれた。

優しさに甘えすぎてしまった。


みんなを送ってくれたあと最後は私。

車内では倫也の就職先などの話を聞いたり短大を中退したりしたことも話した。

黙って頷いていたのが意外だった。

短大の友達から聞いて知っていたのかそれともよほどびっくりしたのか


美優の家が近づいてきて降りるまで当たり障りのない会話をしていた。


車から降りて家の方に少し歩いたところでお見送りのつもりで車の方に振り向いたらなんと倫也が降りてきた。

全く想定外のことだった。

何か忘れ物した?何か言い忘れた事あった?と心巡らせて。


あたりは暗かったが歩いてくる姿が見えたのでヘッドライトがついていたのだろう。

エンジンはかかっていたのか。


記憶が曖昧だがすぐ近くまで来たのは確かだ。

そして美優の華奢な顎に倫也の指が触れ静かに上に向けられた。

とても素敵なシチュエーションだった。

19歳の美優がときめくのには十分だったが悲しいけれどそのキスは避けるしかなかった。


家の近く、そして夜が遅いとはいえ外、美優にとっては重要なことだった。

誰に見られても構わないなんていう勇気などなかった。


すぐに何か言おうとしたけれど倫也の少し大きな声に遮られた。

「こんなの嫌だから‼︎

美優の瞳を1度も見ようとせず少しの間を置いて車に戻り走り去ってしまった。 


あの時のブレーキランプの赤い色を今も鮮明に思い出す。


優しい人に大きな声を出させてしまったのは私。

倫也はこの時に完全に誤解した。

美優は好きでもないのに呼び出してただ利用しただけだと

そんな女ではないのに、好きだったからなのに。

倫也は美優が自分を好きだということを知っていたはずじゃなかったのか。


美優はと言えばその声にびっくりしたのとこんな所で大きな声を出さないでと言う思いで何も言葉にできなかったし動けなかった。


すぐに誤解を解いておけばこんなことにはならなかったろうに。


今思えば腕にしがみつくとか車に2人で戻ろうと促すとか色々方法はあったろう。

引き止めればよかった。

しかし家の近くで揉めたりはしたくなかった。

まだ若い美優には到底無理だった。

とてもそんなこと考える余裕もなかった。


2人の心はバラバラになった瞬間だった。


寒さを感じなかったのはなぜだろう。

まだ冬ではなかったのか、いや


日々は巡り40年が過ぎて本当にあの時に携帯電話やLINEがあれば良かったなと思った。


封印が解けた今、なぜ車中じゃなかったの?家の近くなの?と思ってしまう

どうして1度も私の目を見てくれなかったの?

そうしたら手くらい握れたかもしれない。

それともう一つ、私たちまだ交際してなかったよね⁈

まぁ あんな状況じゃ言えない。


何日かしてから倫也に電話したけれど声も聞くことはできなかった。

本当は私もキスしたかった。

それにそうなったらすぐにじゃあねと家に帰れなくなってしまう気もしてた。


しかし家の近くだし夜遅いとはいえ外だったし近所や親のことが気になった。

母親が19歳の美優を心配して家から出てきてもおかしくなかった。

中退してそれほど時間も経っていなかったし。

実際、家の方を気になってチラッと見てみたら黒い人影のようなものが動くのが見えたような


そして美優は後悔しても仕切れない決断をしてしまった。


あの人の事は諦めよう。

私は倫也には相応しくない。

短大を中退するような境遇だし。

いや そんな綺麗事だけではなく心の奥底には、私、この人と一緒にいたら短大中退したことをずっと忘れられないんじゃないかというものもあった。


とにかく早く忘れたかったのだ。