「ブッククラブ回」という、書店にでかけた。そのお店は、南青山にある。

 スピリチュアル系の本を揃えた書店だ。それを聞いて、そのお店への興味が、私のなかで頭をもたげた。

 私は経済的な事情で、あまり本を買わず (買っても、ほとんど古本に限られる) 、図書館で借りてばかりいるのだが、今回は買いにでかけてみることにした。『ヴォイニッチ手稿の秘密』という本を欲しかったからだ。何か、「それを読め」というような啓示のようなものを、ここのところ感じ取っていたのだ。そして、その本は、最近発売されたばかりで、かつ人気がありそうなので、図書館で簡単に借りられるとも思えなかった。

 電車に乗って、青山まで出かけた。

 青山の駅の構内で、身なりのいいご婦人たちが、マンションを買うとか買わないとか話していた。青山近辺の駅のホームでは、若い女の子たちがディレクターがどうのという話していた。自分の住む町とは雑談のレベルが違うな、と思った。

 地下鉄を出て、大通りの交差点を横切り、裏道に入って少し歩いた先に、その建物はあった。趣のある佇まいだった。そしてどことなく、異質なオーラを放っていた。

 入り口を抜け、地下へと続く階段を下りていくと、書店が現れる。落ち着いた雰囲気で、掃除が行き届いている。

 店員さんが、荷物を近くの椅子の上に置いておいてもいいですよ、と言ってくれた。私は、『ヴォイニッチ手稿の秘密』はありますか?と尋ねた。

 店員さんがその本を探してくれているあいだ、私は店内をグルッと回り、書棚を眺めていった。

 自分好みの本がたくさん書棚にはあった。ユングやフロイト、レヴィ=ストロースなどが置いてあった。どれも一般的な書店では扱われていないような本ばかりだった。

 『生命の木』という、ユダヤ教のカバラ (ユダヤ教の密教) に関する本も置いてあった。題名からして、カバラの生命の木 (セフィロトの木) に関することが書かれた本なのだろう。めちゃくちゃ欲しかったが、値段が五千円近くもしたので諦めた。そんなに需要もなさそうなので、普通に図書館でも借りられるだろう。

 『ウパニシャッド』も置かれていた。バラモン教の聖典で、ヴェーダ (古代インド哲学) の一部だ。違う訳の本が二冊あった。一方はわりに安かったけれども、やはり図書館で借りられるだろうと考え、買うのを見送った。

 佐藤愛子の『私の遺言』の横に、相曽誠治の著書が二冊置かれていた。「このお店のオーナーは、『私の遺言』を読んでいるな」と思った。

 沢木耕太郎の『深夜特急』も見つけた。「なぜ、ここにこの本が?」とも思ったけれど、旅とは人生のメタファーだからなのかもしれない。それにこの本は、最後のほうに少しスピ的な要素があったりするからだろう。主人公がポルトガルの外れの岬で、とある天啓のようなものに打たれるくだりがあるのだ。

 書店だと「出会い」があるな、と改めて思った。ネットの通販で出会いはまずないのだけれど。私はネットは欲しい本があるとき、書店は思わぬ出会いを求めて利用する傾向にある。

 店内には、私以外にもお客さんがいて、本ではなく、スピリチュアル系のグッズを見て回っていた。やはり、どこか品のいいご婦人たちだった。私以外にも、男性のお客が来ていた。

 店員さんが『ヴォイニッチ手稿の秘密』を見つけ出してくれたので、それを購入して店を出た。また来ようかな、と思った。

 私ごとですが、私と青山の縁はかなり薄い。これまでに三回くらいしか行ったことがない。一度目は、友人たちの買い物に付き添ったとき、二度目は、明治神宮に参拝をしたとき、そして三度目は、私がホームレスをしていたおり、青山の街を歩いて通り過ぎたときだった。自分と青山のあいだに、少し接点ができたみたいで、なんだかちょっと嬉しくもある。