ノンアルコールカクテル、ミルクセーキ
ここは、場末のBAR MITSU。
でも、今日は、一味も二味も違いますよ?
今日は、とてもポカポカ陽気、うってつけのキッチンカー日和。
普段は夜のみの営業のBAR MITSUが、今日は青空の下で開かれています。
みつはいつもの通りのバーテンダー
音ちゃんは、キッチンカーを置いてある敷地内でストリートピアノのソロリサイタル。
看板猫のハチワレ猫、ねねは、何時もよりやる気を出して、お気に入りの赤い蝶ネクタイを結び、、ウエイトレス。
「いらっしゃいにゃせー!いらっしゃいにゃせー!ご注文がお決まりでしたら、美魔女猫、ねね様までお声がけくださいにゃん!」
喋るねねが珍しいのかどうなのか、人がワラワラ寄ってきて、いつの間にか、満員状態を越して、行列ができていた。
「ひぃー!!ちょっとは加減してちょうだいよー!!」
満員と急ぐことが嫌いなみつは、パタパタ、パタパタとキッチンカーの中を走り回っているよう。
「はい、ファジーネーブルですね、はい、カンパリオレンジですね、はい、ソルティードッグですね…忙しい」
一方、ねねはというと…
「そこの可愛い猫ちゃん、こっちにいらっしゃい」どこかのおばあさんがねねを優しく呼ぶ。
「アラ?アタシを呼ぶには、それ相応の対価を払うことを必要とするにゃよ?よろしくて?」アタシは高いオンナよと言いたげなねねに、
「よろしいわよー?」余裕そうな笑みで老婆は言った。
ねねが向いた先には、老婆ミフネがねねの大好物のちゅるちゅるを持って待ち構えていた!!
ダーッ!!
目がハートマークになったねねは、ちゅるちゅる目掛けて一目散に猛ダッシュする!!
「はいはい、いい子ねー?これあげるから少しの間静かにしていてね?」
その時、一瞬にして優しい笑みをしたミフネの瞳が怪しく光った!!
「ぎにゃー!!!」
ねねは大声で叫んだが、人が多すぎてみつにはその声が届かず、ねねはそのままミフネのリュックサックに無理やり突っ込まれた!!
それと同時にねねの蝶ネクタイが外れ、ぱたりと地面に落ちた。
一方、その頃みつはというと…
「いそいそ…いそいそ…あれ?ねね、注文取りに行ったっきりいつの間にか居なくなったな…?ふー、まさか、イケメン捕まえてゴロにゃんしてないでしょうねぇ?しょうがないなー、音ちゃんに頼むっきゃないか」
呆れ顔をしたみつは、ピアノに向かって大声で
「音ちゃんー!!ねねがどっかに行っちゃったから、ヘルプミー!!」
と叫ぶと、
「あいあーい!!これ1曲弾き終わったら行くからよー!!」
と、音ちゃんのみつにも負けない大きな返事、そしてどこからともなく美しい讃美歌の調べが響きわたる。
音ちゃんのおかげで、大分人もはけて、太陽がお空とさよならしそうになってから…
「それにしても、ねねったら遅すぎない?」
待っても来ないねねに愛想をつかしそうになったみつがいうと、
「だよなー、大抵は、オトコにくっ付いて行っても、アイツは金にだらしなさそうだから嫌にゃとか、アイツは絶対男尊女卑主義者だから嫌にゃとか、アイツは猫を生き物だとしか認識していないにゃんetc…ブツクサボヤキながら早々と帰ってくるもんな?」ふぅっとため息を漏らす音ちゃん。
そう、猫の世界では、恋愛の主導権はメスにあるので、例え発情期で喧嘩に勝ったオスでも、メスに気に入られない場合があるらしい。
「んー?あれ?あそこの地面に落ちてるのって、ねねの蝶ネクタイじゃない?」
みつがねねの赤いネクタイを見つけ拾い上げると、
「あー!そうだよなぁ!何でここにあんだ?」疑問を持った音ちゃんに、
「一応、警察に行ってみようよ!!」何か手掛かりがないかとみつは提案した。
みつと音ちゃんは、店を閉めて、警察に向かった。
警察では…
「んー、探し人なら届け出は出せますが、猫?んー、うちの署では取り扱っていませんね、すみませんが、他をあたってください」警官の形式ばった言い分に、
「んだと!?サツのヤロー!!舐めやがって!!やるかこのー!?」
憤慨する音ちゃんにみつが
「音ちゃん、待って、落ち着いてね。ごめんね、ありがとうね、すごくねね思いだもんね」
「当たり前だコノヤロー!ねね様は、アタイの命より大事だからな!!」
みつは考え、ふと思い出したことがあった。
「あたしにちょっといい案があってね、ちょっとついてきてくれない?」
みつの案内で音ちゃんは、街の中心のスーパー銭湯、猫の湯に来た。
「え!?アタイ、銭湯に入りにも、パチ打ちにも、ゲーセンにも来たんじゃないんだけど!」
「私もそうだけど、心当たりがあるの」
そう言ってみつは、銭湯の方に行き、番台に向かって、
「ごめんくださーい!!あ、源さん?トラさんいませんか?」と、大声で銭湯の番台、源さんを呼んだ。
「よぉ、みっちゃん久しぶり!!元気だったか?たまには銭湯にでも入りに来いよ!!
うちの銭湯は、肌が剥きたての卵みたくツルツルになるぜ!!」
「ごめーん!!ちょっとうちのねねがいなくなっちゃってさー、トラさんの知恵を借りたいのー!!」
「なーんだ!そういうことは早く言えっての!ほれ!!トラ!!姉ちゃんたちと戯れてないで、さっさとみっちゃんを手伝え!!早くいかねーと晩飯抜きだかんな!!」
若いお姉さん達2人と楽しそうに脱衣所で戯れていたトラ猫のトラは、
「おやっさん、そりゃねーにゃん…。ひでーにゃん!!で、みっちゃんよ…あ、音ちゃんもいたか、ねね様がどうしたにゃん?」
「あのね、今日はキッチンカーの日だったんだけれども、いつの間にか、ねねがいなくなっていて、これが落ちていたの。でも、警察は何も分からないって…。」
「なるほどな、そしたら、ここいらの看板猫、野良猫達を仕切る俺様の出番だにゃ!!」
トラさんは、銭湯の入り口で日向ぼっこをしながら毛づくろいをしていた若いトラ猫に
「いよう!!そこの若ぇの!!大急ぎで猫組合員全員呼べ!!街中の猫かき集めて、緊急猫全体会議にゃー!!」
「はっ!!はいにゃー!!」若いトラ猫は、急いで走り去った。
若いトラ猫がどこかに行って、数分と経たないうちに、どこから湧いて出てきたのか、物凄い数の子老若男女の猫たち。
みつは、冬にもしこの数で猫団子したら…はっ!そんなこと考えてる場合じゃなかった!!と思った。
大勢の猫たちを目の前にして、トラさんはこう叫ぶ!!
「おめぇらを呼んだのは他でもねぇ、みっちゃんちの、俺らのアイドルねね様が行方不明になったにゃん!!」
アイドル??ねねがアイドルなの??いつの間に??ビックリするみつ。
「にゃんだとーぅ!!ねね様ー!!俺たちのアイドルを奪った奴はどこのどいつにゃー!!」いきり立つ若い黒猫
「許さにゃい!!あたいの猫パンチ連打にゃん!!シュッ!シュッ!」猫パンチをする真似の三毛猫
「まあ、落ち着け、人間に出来なくて、俺達猫に出来ることがあるにゃん!!
俺達は人間の倍以上耳がいい!!鼻も利く!!そこでだ!!ねね様の付けてたこの蝶ネクタイの臭いを嗅ぎ、耳をよくすましながら、みっちゃん達のキッチンカーの場所まで行き、ねね様を探すのにゃー!!」
「おおー!!ねね様のお匂い!!!!是非とも嗅がせて下さいにゃん!!」一斉に目がハートマークになる若いオス猫たち
「言っとくが、オマエら、これは仕事だからな?よこしまな考えで嗅いだら、爪だし猫パンチ連打にゃん!!」トラさんが若いオス猫達をいさめると、
「へ…へいっ!!親方!!」とオス猫達は身をただした
「よし!!一列に並んでねね様の蝶ネクタイを嗅げ!!そして、嗅ぎ終わったら所定の場所にさっさと向かえにゃん!!」指令を出すトラさん。
「分かったにゃんです!!」
次々とねねの匂いを嗅ぐ猫たち、たまにねねのフェロモンを感じて、びっくりした顔のように口をパカッと開け、フレーメン反応を起こす猫もいたが、これは猫が匂いの記憶を脳にしっかり記憶するための反応だ。
ダッ!!次々に四方八方に走り去る猫たち。
「さあ、私達も戻りましょう!」
みつと音ちゃんがキッチンカーのある場所に戻ると…
「みっちゃんさーん!!音ちゃーん!!ねね様見つかりましたよー!!」若大将の茶トラのチャーがこちらに向かって叫んでいる。
「えっ!?思ったより発見が早くない??」
声をかけてくれたチャーの元へ向かうと、そこはキッチンカーの広場よりそんなに離れていない小さな公園で、ミフネと小さな女の子、モエと、ねねがいた。
「あれ?こんなとこに公園なんてあったっけか?さっきは分からなかったよな…?」音ちゃんが不思議がり
みつは、やはり、猫たちの情報網はすごいと思った。
それより…早くねねを抱きしめたい、返してもらって、帰りたい。
ねねは、みつにとって無くてはならない存在なので、胸がギューギュー痛いみつ。
「あの…その猫、うちのなんですけど、返して頂けませんか?」心臓をドキドキさせながら恐る恐る言うみつにミフネは、
「あぁ…もう少し…もう少しだけお借り出来ませんか?うちの5歳の孫、モエが、どうしても猫が欲しいって言ってきかなくて…。
しょうがなくちゅるちゅるを使ってねねちゃんを捕まえました」
「えっ!?ちゅるちゅるをあげちゃったんですか!?いつの間に!?」
ねねがいい子にしていた時にしかあげてないちゅるちゅるをミフネがあげてしまったのに驚いたみつ。
それに…チラッとねねの方を見ると、モエちゃんから猫じゃらしで遊ばせてもらっているのだけど、いつもと様子が違う。
ふにゃ~ん、ゴロゴロ…と言いながらねねは、コロンコロン、クネクネと地面に身体を転がしたり、身体を擦りつけている。
「あの…おばあさん、ねねにマタタビなんて与えませんでしたか?それも、かなりの量!!」
それに対して何の気なしのミフネが、
「あら?喜ぶと思ってあげたんですが、いけなかったかしら?」と言うと、リンゴのように真っ赤で顔をしかめて怒ったみつが
「猫にマタタビを与えすぎると、呼吸困難になって死んじゃうんですよ!!」
「あらまっ!!いけないわね!!私ったら何も知らないで!!」驚くミフネ。
「猫は、見た目がとても可愛くて、私も大好きです。でも、生き物です、大事な家族です。
可愛いからと言って、おやつを簡単に与えないでください、ちゃんとしたご飯を食べないで、おやつばっかり食べちゃって、栄養の偏った猫になります。
第一、猫を飼うとして、猫を迎える設備は整っていますか?
猫トイレとか、猫のエサとか、水とか、猫の毛布とか、猫ベッドとか。」猫を飼うために必要最低限の準備や心構えをみつは珍しく弾丸のように語った。
「あ…それはまだ…何も考えてませんでした」たじろぐミフネ。
「甘いぜ、バーさん、猫を飼うにはな、準備ってもんがある。それに、バーさん、あの猫、一体何歳くらいだと思う?」ミフネに問いただす音ちゃん。
「さぁ…?うちのモエと同じ5歳位?」
「違うぜ、もっとはるか上だよ。20才だよ。人間でいう100歳越えだぜ、人間ならとっくにヨボヨボか、とっくにあの世行きだぜ」音ちゃんの発言にミフネが、
「何ですって!?私よりもとっくに上だっていうの!?」と驚愕した。
「そう、だから、食べ物にも気を付けています。
普通のご飯は受け付けなくて、吐き戻すので、15歳以上の吐き戻しをしないように作られているご飯をあげています。
で、それは、カリカリなんですが、性能上消化しやすく作られているので、すぐ空腹を訴えるので、私は、レトルトパウチのエサもあげています、逆に与えすぎても吐き戻します」
みつがねねのエサと身体に気を付けていることを説明すると
「ね…猫って飼うのがすごく大変なのね!?」とまた驚き、
「大変ですとも、具合が悪くなって病院にかかっても、保険がきかないし。
いつも実費ですよ。この前膀胱炎でねねを動物病院に連れて行ったら、一日で一万かかりました。最近は、猫も保険適用みたいですが、ねねは高齢なので、適応外ですって」
「猫って可愛いけどぬいぐるみじゃねぇんだぜ!!ちゃんと生きてるんだぜ!!感情だってあらぁ!!嫌なことをした奴は覚えていてとことん嫌うし、大好きな人間には、無償の愛をふりまくぜ!!」
「猫って奥が深いんですね…」しみじみとミフネは言う。
「だから、猫好きは、止められないです!!」みつはズバリといった。
「それじゃ、ねね!ねね!!」みつはねねを揺さぶり起こそうとしたが、
「ふにゃぁ…ごろにゃん…」マタタビがまだ効いているらしく、夢見心地のねね。
「あーあ、土まみれになって…。
こりゃー、ねねの大っ嫌いなお風呂か?」音ちゃんがいうと、ふぅ~、と深呼吸したみつが、
「さて、皆さん、キッチンカーへ戻りましょう、カクテルをごちそうしますよ」と言った。
「え?私はアルコールを飲めても、この子は飲めませんよ?」たじろぐミフネに、
「良いから大丈夫だって!!このみつ様に任せなって!!」自信満々の音ちゃん。
皆でキッチンカーにもどり、みつはキッチンに立つと、カクテルの準備をする。
材料…牛乳…120㎖
卵…1個
砂糖(シュガーシロップ)1tsp
作り方…材料をシェイカーに入れて、シェイクして、グラスに注ぐ。
ノンアルコールカクテル、ミルクセーキの出来上がり。
「どうぞ。」
こくっ…
「おばーちゃん!これ、甘くて美味しーね!!」モエが感嘆の声を上げる
「そうねぇ、しばらくこんなにまろやかで懐かしい、美味しい飲み物飲んだことないわ」
良かったです。
「もし、ねねと遊びたくなったら、良ければ後日改めて私の店、BAR MITSUにいらっしゃってください。ねねと一緒に遊んでもらってもいいですか?」
「はい、ぜひお願いします!!」
「やったー!!またねねちゃんと遊べるー!!」みつの申し出に喜ぶミフネとモエだった。
そんなことは知らずに、ねねは幸せそうな表情を浮かべながら、こんこんと眠っていた…。