支倉常長とゆかいな仲間達 ~エスパーニャへ第2巻~ | MITSUのブログ

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ニューヨークの路上で鍛えられたBlues Manの日記。

夏の穏やかな夜、満月が城下町を明るく照らし、遠くから三味線の音が聞こえてくる。

あの日から、3ヶ月・・・、明日は、遂に出航だ。

一度海に出たら、次にこの東北の地に戻って来れるのはいつになるのだろう。

もしかしたら航海の最中、病で倒れるかもしれない。

仮に、無事にエスパーニャへ到着したとしても、異国の人々は私たちを快く受け入れてくれるのだろうか?

異国で頼りになるのは、あのルイス・ソテロとかいう宣教師だけだが、奴は本当に信用できるのか?

奴は途中で裏切り、船を奪って逃げるのではないか?

奴の本当の目的は船!?

そういえば、奴は航海中に座礁し、石巻付近の海岸に辿り着いたと聞いたことがある。

しかも使節団の半分は、罪人だという話ではないか。

これでは大海原で食料が少なくなった場合、食料を奪い合い殺し合いになる・・・。

まったく、政宗様は何を考えておられるのだ?

ああ、懐かしの「ずんだ餅」。

あの口の中で広がる「絶妙な甘さ」と「ずんだの香り」。

次に母上の作った「ずんだ餅」食べられるのは、いつになるのだろう?

考えれば考えるほど、不安が次から次へ心の隙間に割り込んでくる。

「え~い、考えても仕方が無い。酒だ!とりあえず酒だ!今宵は、上等な笹かまぼこを炭で炙って、上等な日本酒をたらふく飲んでやる。」

「これ、さなえ、上等な酒、そうだ一ノ蔵があっただろう、それ持って来い。」

落ちぶれても支倉家は名家、いく人かの奉公人が常長の身のまわりを世話をしているのだ。

5杯目の銘酒を湯のみ茶碗にとくとくと注いでいると、玄関から声が聞こえてきた。

「おーい、常。酒を持ってきたぞ!」

声の主は、熱海十兵衛ではないか。

彼は、幼い頃から常長と共に剣の腕を競い合った、いわば親友。

現在では、白石城の城主、片倉小十郎の右腕に成長した剣豪なのだ。

「小十郎様から城主しか飲めないと言う、この蔵王っていう酒をいただいてな。お前と一緒に飲みたくて、やってきたんじゃ。」

「なんだ、十兵衛、、、ヒィッく、、、これはどういう風の吹き回しだ。白石から2時間もかけて、この落ちぶれたオレを笑いにきたのか?そうか、明日になれば、もう二度と会えないからなっ!」

「常、何を自暴自棄になっているんだ。よく聞け、オレもサン・フアン・バウティスタ号に乗ることにした。親友のお前を、一人で異国に行かせられないしな。それに、オレも異国っていうのを、この目で見てみたいんだ。」

「十兵衛・・」

「よし飲むぞ!生まれ故郷で、最後の酒盛りだ!これ、みんなこっちに来い!」

十兵衛が声をかけると、三味線や笛、太鼓を抱えた者たち、遊郭の女たちが、ぞくぞくと家に入ってきた。

チャンチャラ、チャッ、チャ、チャラチャラ、ドン・ドン、ピーヒャラ、ドン・タカ、ピーヒャラ、ドン♪

「よし、今宵は無礼講じゃ~。みんな、飲め!」

チャンチャラ、チャッ、チャ、チャラチャラ、ドン・ドン、ピーヒャラ、ドン・タカ、ピーヒャラ、ドン♪

暗闇が深くなるのに反して、宴はどんどん盛り上がり始めた。

かくして常長は、この旅で唯一心を許せる友を手に入れたのあった。

つづく