7月中旬、熱波が日本列島を襲い、非常に暑い日が続いていたある日、登山客でにぎわう京王線高尾山口駅での出来事である。ホームに上るエレベータに登山を終えた数人の若者がどやどやと乗り込み、歳のいった女性が一人だけ取り残された。
若者の一人が開ボタンに押しながら
「どうぞ、まだ乗れますよ」
と声をかけた。
「私、お婆さんで臭いんです」
老婦人は、自分の汗のにおいを気にして、乗ろうとしないでいた。
若者たちは口々に
「我々も今、一杯飲んできて酒臭いから、大丈夫です」
というようなことを言い、結局、遠慮していた女性は促されてエレベータに乗り、一緒にホームまで昇った。
エレベータに乗り合わせた全員が、汗をかき、シャツが色変わりするほど濡れていた。
筆者も、80歳近く、さぞかし、他人様には不快な臭いをまき散らしているであろうことを心配しつつ、エレベータに乗ったが、この短いやり取りを聞いて、若者の老人に対する思いやりの気持ち、老人の他人に迷惑をかけまいとする気遣いを感じ、晴々とした気持ちになった。
こうしたことこそ日本の美風であり、世の中がどう変わっても残しておかなければならないことである。久方ぶりに、気持ちが和み、長生きしようという気持ちになった。