筆者が属しているフィットネスクラブの化粧室(トイレでなく、文字どおり風呂上がりの化粧室)には、「ドライヤーは髪の毛だけに使ってください」というビラが貼ってあった。最初、このビラが何のために貼ってあるのか、分からなかった。髪の毛を乾かす以外のドライヤーの使い方が思い浮かばなかったからである。

 しかし、この疑問は同じフィットネスクラブに通う家内との話で直ちに解消した。家内によれば、ジムの会員には外国人女性がまじっており、彼女たちはドライヤーを、髪の毛を乾かすほかに、下部の毛の生えている部分を乾かすためにも使っているとのことである。

 私ども夫婦の通うフィットネスクラブは新大久保に近い。その地区に住む多くの外国人女性がクラブに入っており、彼女等が自国における習慣を日本に持ち込んで、ドライヤーで髪の毛以外の毛を乾かしているのである。これは、彼女等の国の文化であり、品位が落ちるとか、恥ずかしいとかといった問題ではない。それゆえ「ドライヤーは髪の毛だけに使ってください」という遠回しの表現では、彼女等にこの貼紙の真意が伝わらないおそれがある。

 こうしたことで思い出すのは、日韓交渉の場で河野外務大臣が韓国の駐日大使に「無礼である」と反論した場面である。我が国のマスメディアは「無礼」という強い言葉に異論を差し挟む向きもあったが、外国人に物事の本質を理解してもらうには、日本人がよく使う「遺憾」という曖昧な表現ではなく、「無礼」の方が適切であると考える(因みに漢和辞典によれば、遺憾とは「残り惜しく残念なこと」の意である)。河野大臣は適格な表現で我が国の立場を韓国に伝えた優れた政治家であると言ってよい。

 外交といった高度な話は別にして、家内の話によれば、フィットネスクラブでは相変わらず髪の毛以外の場所をドライヤーで乾かす外国人女性がいて、日本人女性はこの行為を軽蔑の眼差しで見つめ、外国人女性は当然のこととして無邪気に股間をドライヤーで乾かす状況が続いているとのことである。

 なお、フィットネスクラブの運営者は最近、ドライヤーの使い方に苦情を申し立てる日本人会員の意向を汲んで、ドライヤーの使い方に関する貼紙を「ドライヤーは頭髪専用です」という直接的な表現に改め、しかも、ビラを掲示板にして、日本語のほか外国語でも表記するようになった。写真がその掲示板である。

 この貼紙から掲示板への改革によって外国人女性のドライヤーの使い方が改まるかどうか興味津々であるが、それにしても、異民族間で相互に理解し合うのは、政府レベルにおいても、民間レベルにおいても、極めて厄介であることが分かる。