構音障害のリハビリ方法
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構音障害における包括的リハビリテーション:病態分類から臨床・自宅訓練プログラムの実践まで
1. 構音障害の定義と臨床的分類
構音障害(Articulatory disorders)は、発話時に音響的な音素を正確に産生することが困難となる病態であり、その発生機序や原因病変に基づいて主に3つのカテゴリーに大別される。
運動障害性構音障害(ディサースリア:Dysarthria): 脳血管障害、頭部外傷、あるいは進行性変性疾患などにより、発話に関わる神経・筋系に病変が生じ、呼吸筋、喉頭、軟口蓋、舌、口唇、頬などの構音器官の運動制御が障害された状態である。
機能性構音障害: 構音器官の器質的な異常や、明らかな神経学的麻痺が存在しないにもかかわらず、誤った構音習慣の定着などによって発音の歪みや誤りが生じる病態である。
器質性構音障害: 唇顎口蓋裂などの先天的な形態異常、あるいは舌癌などの術後切除といった、構音器官自体の構造的・解剖学的な改変に起因する障害である。
臨床現場において最も頻繁に介入対象となる「運動障害性構音障害」は、大脳皮質の言語野損傷を主因とする「失語症」とは明確に区別される。失語症は、言語のコード化および復号化プロセス(聴く、話す、読む、書く、計算するなどの記号処理機能)自体の障害であり、認知的な言語処理の破綻を伴う。これに対し、純粋な運動障害性構音障害においては、言語の理解や思考、表現の選択といった言語能力自体は高度に保持されており、構音器官の運動機能不全(いわゆる「ろれつが回らない」状態)のみが問題となる。ただし、急性期の脳血管障害などでは両者が合併して出現することがあり、精緻な鑑別診断と個別の評価が必須となる。
構音障害の早期発見およびスクリーニング指標として、以下の自己チェック項目が臨床的に用いられており、該当項目が複数ある場合は専門的な介入が推奨される。
構音障害の臨床的自己チェック項目(スクリーニング指標)
1. 日常会話において、同一の音を繰り返し言い誤ることが多い。
2. 会話の速度が速くなると、相手のペースについていけないことがある。
3. 舌の先端を上あご(硬口蓋の天井部)に接触させることが困難である。
4. 脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)の既往歴がある。
5. 日常生活の中で、舌や口唇が動かしづらい、または重いと感じる。
運動障害性構音障害は、障害された運動経路や病変部位に応じて、下表のように細分化され、それぞれ異なる生理学的特徴と特有の発話症状を示す。
分類タイプ 主な原因病変 神経生理学的特徴 主な発話特徴
弛緩性(Flaccid)
下位運動ニューロン、脳神経・末梢神経、神経筋接合部
筋緊張低下、弛緩性麻痺、筋力不足、筋萎縮、線維束性収縮
開鼻声(鼻に抜けた声)、気息性嗄声(息漏れ声)、吸気時喘鳴、全体的な声の弱々しさ
痙性(Spastic)
両側性上位運動ニューロン(仮性球麻痺など)
筋緊張亢進(ガチガチとした強剛・痙縮)、運動制限、反射亢進
発話速度の著しい低下、遅く不規則な交互運動、努力性・粗糙性嗄声、途切れがちな発話
一側性上位運動ニューロン性(UUMN)
片側性の上位運動ニューロン(一側の運動皮質や内包の損傷)
対側下半部の顔面・舌の軽度麻痺
痙性と類似するが、重症度は比較的低く、一時的な構音の歪みや不明瞭さが主
失調性(Ataxic)
小脳または小脳求心・遠心路
協調運動不全(運動のコントロール不良、タイミングや力の調節障害)
不規則な構音の崩れ、声の大きさの異常な変動、音・音声の持続時間の不規則性、爆発的発話
運動低下性(Hypokinetic)
錐体外路系(パーキンソン病、パーキンソン症候群)
筋強剛、静止時振戦、可動範囲の狭小化(寡動・無動)
ボソボソとした平坦な話し方、声量の低下、発話速度の異常(加速傾向)、同語反復
運動過多性(Hyperkinetic)
錐体外路系(ハンチントン舞踏病など)
意図しない不随意運動(舞踏運動、アテトーゼ、ジストニア)
予期しない発話の中断、不規則な構音の崩れ、声量や速度の急激な不随意変動、努力性発声
混合性(Mixed)
複数の系統にわたる神経系障害(ALS、ウイルソン病など)
痙性と弛緩性の混在、あるいは痙性・失調性・運動低下性の混在など
関与する病変に応じた多様な構音・発声障害の複合パターン
2. 構音リハビリテーションの生理学的階層性と介入ステップ
構音運動は、単一の調音点における運動に依存しているのではなく、呼吸、発声、共鳴、構音という4つの生理学的サブシステムが極めて高い精度で時間的・空間的に連動する複雑な協調運動である。このため、臨床的な介入においては、各サブシステムの生体力学的な依存関係を考慮し、基礎となる「ボトムアップ・アプローチ」から順にアプローチしていくことが推奨される。
呼吸(Respiration): 発話に必要な呼気流を生成し、適切な呼気圧(エネルギー源)を持続させる。
発声(Phonation): 喉頭周囲筋および声帯筋の協調的閉鎖と振動により、基本音源を形成する。
共鳴(Resonance): 軟口蓋(鼻咽腔閉鎖機能)の制御により、呼気流の口腔と鼻腔への分岐を調整する。
構音(Articulation): 舌、唇、下顎などの能動器官を静的・動的に制御し、音声波を特定の音素へと成形する。
リハビリテーションの第一歩は、これらサブシステムが効率的に機能するための生体力学的基盤、すなわち「姿勢(アライメント)」の制御から開始される。姿勢が崩れると、横隔膜や肋間筋などの呼吸筋群の拡張が妨げられ、必要な肺活量を確保できなくなるだけでなく、頭部や頸部の偏位によって喉頭や咽頭筋群に過度な代償的緊張が誘発される。
具体的なポジショニングとして、椅子に深く腰掛け、骨盤を立てて足の裏全体を床につけ、背筋を伸ばして顎を引く姿勢が指導される。さらに、上位運動ニューロン障害による痙性や錐体外路系障害による固縮がみられる症例では、首の回旋、前後屈、側屈、肩の上下運動を自主的、またはセラピストによる徒手介助のもとで実施し、上肢帯から頭頸部にかけての過緊張をほぐすことが発声・構音運動の先行条件となる。
3. 口腔機能・呼吸制御訓練の各論的メカニズム
各サブシステムの機能低下に対する直接的介入として、解剖学的な運動動態に基づいた様々なリハビリテーションテクニックが展開される。
呼吸・発声系の訓練メカニズム
十分な呼気圧を確保し、息漏れや嗄声(声のかすれ)を改善するため、腹式呼吸の意識化(手をお腹に置いて呼気・吸気時の動態を触覚的に確認する訓練)や、持続発声(「アー」という音を持続させる発声訓練)が行われる。臨床的な目安として、日常的な発話をスムーズに行うためには、一定の声量で最低10秒間の持続発声(最長発声持続時間)が可能であることが一応の基準とされる。
呼気の持続的排出能力と口唇・口腔内圧を高めるための代表的な手法が、ストローぶくぶく(水泡形成訓練)およびブローイング訓練である。
ストローぶくぶく: 水を入れたコップやペットボトルにストローをさし、持続的に息を吹き込んで泡を立てる。水の深さを$5\text{ cm}$程度に設定することで適切な抵抗(逆圧)を形成し、時間を測定しながら行うことで、呼気流の制御に必要な呼吸筋群の耐久性と気密性を高める。
ブローイング訓練: 音声が鼻へ抜けてしまう「鼻咽腔閉鎖機能不全」や「開鼻声」を呈する症例に対し、軟口蓋の積極的な挙上と口唇の気密性を高めるために、ストローでの水吹き、または「吹き戻し」などの玩具を繰り返し吹かせる。
咽頭後壁への空気刺激: 構音や嚥下の感受性を高めるため、強く息を吸い込むことで咽頭後壁に冷気・空気刺激を与える手技も取り入れられる。
構音器官(口唇・頬・舌)の運動可動域・筋力強化訓練
話す機会が減少した患者に生じやすい、廃用性の筋硬化や筋力低下を防ぐため、以下の積極的な動的アプローチを実施する。
口唇・頬の自動運動と他動運動:
唇をすぼめる「ウー」の発声と、横に引く「イー」の発声を交互に行い、口輪筋および頬筋の可動域を拡大する。
頬を膨らませた状態(気密性の保持)から、一気にお腹をへこませるようにすぼめる動作を繰り返す。
片麻痺(一側性麻痺)を呈している症例では、健側の動きが過剰となって患側の運動が引き出されにくくなるため、必要に応じて健側の運動を手動で抑制し、患側の選択的運動を引き出す。
他動的刺激として、電動歯ブラシの背面などを口唇の白唇部に当てて振動微細刺激を与えることで、局所の固有受容感覚を高めて運動を誘発する手法も有効である。
舌の運動制御と代償動作の排除:
舌の前後、上下、左右への能動的な突出・移動運動を行う。
舌の運動時に、患者が不随意に「下顎(あご)の上下動」や「首の回旋」によって運動範囲を補おうとする「代償動作(顎・首の連動)」に注意しなければならない。舌尖を挙上させる際に顎が一緒に動いてしまう場合は、手で顎を軽く固定(抑制)した状態で舌だけを独立して動かす分離運動訓練を行う。首が一緒に動く場合も同様に、頭部を真っ直ぐに保持させた状態で舌のみを可動させる。
筋力強化(等尺性抵抗訓練)として、舌尖で頬の内側を強く押し出し、術者が外側から抵抗を加える運動や、舌を前方や側方に動かす際に舌圧子やスプーンで抵抗をかけるアプローチが効果的である。また、舌打ち(舌 clack)運動によって舌背部と硬口蓋の協調的な解離・密着能力を鍛える。
「パタカラ体操」における解剖学的標的と訓練の階層性
一般的に普及している「パタカラ体操」は、各音節が担う解剖学的・生理学的な運動機能が明確に定義されている。それぞれの音が異なる筋肉をターゲットとしており、これらを意識的に発音することで、構音能力のみならず、嚥下(咀嚼、食塊形成、送り込み)の各フェーズに必要な筋肉群が刺激される。
音節 解剖学的アプローチ部位 標的とする主要筋群 嚥下・口腔生理機能への効果
「パ」
唇(上唇と下唇の完全な閉鎖と破裂)
口輪筋、頬筋、表情筋群
食べこぼしの防止、唇からの流涎(よだれ)の防止、口腔気密性の確保
「タ」
舌先(硬口蓋、歯茎後部への押し当て)
内舌筋、外舌筋(主に舌尖部)
食べ物を押しつぶす能力の向上、食塊を口腔から咽頭へ送り込む力の強化
「カ」
舌の奥(軟口蓋への舌根部の挙上・密着)
口蓋舌筋、口蓋帆挙筋、喉頭挙上筋群
鼻咽腔閉鎖の向上、誤嚥(気管への侵入)の防止、食塊の咽頭への輸送力強化
「ラ」
舌全体(舌先を丸めて上あご歯茎後部に当てる)
舌の協調的筋群、茎突舌筋
食べ物を口腔内でまとめる(食塊形成)能力の向上、滑舌・流暢性の改善
パタカラ体操の臨床的介入ステップは、単音(パ、パ、パ…)の連続発声から、4音(パタカラ、パタカラ…)の素早い切り替え、さらに「パンダのたからもの」「ラッコがらんらん、らっきょうをたべた」といったターゲット音を多く含んだ文章の発声へと、構音の複雑度とスピード(メトロノームを用いたリズム同期など)を段階的に高めていく。
頭部挙上訓練(シャーカー・エクササイズ)とその日本的改変
嚥下機能の向上および喉頭挙上筋群の強化を目的としたアプローチとして、仰臥位での頭部挙上訓練(Shaker法)が知られている。原法は高齢者や虚弱な患者にとって負荷が大きすぎるため、本邦の臨床実態に合わせた「持続訓練(ゆっくり5つ数えながら頭部を挙上保持する)」および「反復訓練(1から5までのカウントに合わせて頭部を上げ下げする)」といった、負荷を軽減した改変プロトコルが広く提案されている。この訓練は即時効果を有するため、食前に実施することが推奨されており、あごの下に指を触れることで舌骨上筋群の活動をフィードバックすることが可能である。
4. パーキンソン病に特化した音声治療:LSVT LOUD®の生理学的ブレイクスルー
錐体外路系の障害であるパーキンソン病患者に多くみられる「運動低下性ディサースリア」は、声量が著しく小さく、単調でボソボソとした話し方が特徴である。この病態に対して圧倒的な臨床的エビデンス(Level 1)を有するプログラムが、米国で考案された LSVT LOUD®(Lee Silverman Voice Treatment)である。
パーキンソン病における発話障害の根本原因は、構音筋の物理的な「弱化(筋力低下)」だけでなく、「感覚運動統合プロセスの不全(Sensory Mismatch)」にある。患者自身は「適切な声量で話している」と錯覚しており、外部から指摘されて初めて自分の声が極めて小さいことに気づく。
LSVT LOUD®はこの認知的な感覚不全に着目し、以下の極めて特異的な介入プロトコルを採用している。
「大きな声(THINK LOUD)」という単一のターゲット: 発話速度や調音点の修正といった複雑な運動指導を一切排除し、ただ「声を大きく出す」という単一目標に集中させる。これにより、認知的負荷が軽減され、運動学習が容易になる。
感覚の再キャリブレーション(再適合): 大きな声を出すために必要な「大きな運動労力(Effort)」が、他者にとっては「ごく普通の、聞き取りやすい声量」であるという事実を、脳内で一致させる認知行動的アプローチである。
高頻度かつ高強度のトレーニング: 1回60分のセッションを週4回、4週間(計16回)連続で行い、さらに徹底的なホームエクササイズと自己管理の定着を図る。
LSVT LOUD®による機能変化は、単に「声が大きくなる」だけではない。システム全体の生理学的シナジー(連動効果)を引き起こすことが実証されている。
呼吸系の改善: 呼吸数の安定、呼気持続時間の延長。
発声・喉頭系の改善: 声帯内転不全の解消、声の大きさと高さの単調性の改善(プロソディーの回復)。
口腔構音・共鳴系の改善: 声帯の強い振動に伴い、反射的に下顎の下制(開き)が大きくなり、舌の交互反復運動(ディアドコキネシス)の可動域が拡大、結果として「構音の歪み」が劇的に減少する。
研究成果によれば、治療を受けた患者の約90%で音声の大きさが有意に改善し、その効果は治療終了後12ヶ月から24ヶ月にわたって長期維持されることが実証されている。
5. 自宅における年代別リハビリテーションプログラムの実践
セラピストによる臨床介入を日常生活での自発話へと定着(般化)させるためには、自宅で毎日継続可能な「ホームエクササイズ(自主訓練)」の処方が鍵となる。その際、患者の年代やライフステージに応じた動機付けと手法の選択が必要不可欠である。
区分 自宅訓練プログラム名 具体的実践方法とメカニズム 期待される臨床的効果
成人・高齢者向け
[cite: 5]
1. 本の音読(新聞、お気に入りの書籍等)
毎日約10分間、はっきりとした発音を意識しながら音読を行う。自分の声を録音して再生し、聞き手にとって明瞭であるかを客観的に確認・内省する。
発話の流暢性向上、一定の音声維持、自己モニター能力(聴覚フィードバック)の向上。
2. 歌唱(リズムに合わせた発声)
好きな歌をメロディーに乗せて歌う。発音しにくい特定の音(苦手な音素)が歌詞にある場合は、事前にマーカーで印をつけ、そこを意識的に明確に発音する。
呼吸と発声の動的制御、抑揚(インネーション・高低)の自然な獲得、発話滑舌の改善。
3. 言語リハビリ用アプリゲーム
スマートフォンやタブレット端末の構音・発話リハビリ用無料アプリを活用し、ゲーム感覚で自発的に構音チェックを行う。
自主訓練の習慣化、視覚的フィードバックによる楽しさとモチベーション維持。
小児向け
[cite: 5, 13]
4. シャボン玉・おもちゃのラッパ遊び
大きさの異なるシャボン玉を吹き分けたり、ラッパの音の長さ(持続)や強さ(音量)を親の指示に合わせて吹き分ける。
口腔運動パターンの自然な獲得、呼気持続時間のコントロール、発声パワーの基礎構築。
5. ストローぶくぶく
水を入れたコップでストローを用いてぶくぶくと泡を立てる。泡立てる時間を「5秒」「10秒」と計りながら競う。難易度に応じてストローの太さや長さを調節する。
口腔周囲筋の緊張強化、呼吸器系の協調運動獲得、気流制御の自然な学習。
6. 口じゃんけん
口の形を変化させて「グー・チョキ・パー」を表し、対戦する。
・グー=「う」の形(口唇の突き出し)
・チョキ=「い」の形(口唇の横引き)
・パー=「あ」の形(大開口)
口腔および口唇周囲の筋肉量増大、動的な形状可動域の拡大。
7. 顔のマネっこ(ミミッキング)
親が「あっかんべー(舌の最大突出)」など、大げさに舌や唇を動かし、それを子どもに視覚的に模倣させる。
構音器官の模倣能(ミラーニューロンシステム)の刺激、感覚学習の促進。
6. 音声構築の段階的ステップと調音学習
自宅や臨床での直接訓練において、実際に「音を作る」プロセスでは、認知的プロセスから運動実行に至る精緻なフィードバックループを回すことが求められる。
調音イメージの形成とフィードバック
聴覚的・認知的プログラミング: 発音する前に、まず頭の中で理想的な「音の響き」を明瞭にイメージする。
サイレント調音(声を出さない運動確認): 声を出さずに、イメージした音に対応する舌の位置や形、口唇の開き(調音形態)だけで構音器官を動かす。
実発声と聴覚比較: 実際に声に出して発音し、発せられた実音と頭の中のイメージ音との差異を聴覚的に評価する。
自己調整: 差異がある場合は、再度鏡を見ながら口や舌の位置、形を目で確認・修正し、イメージ通りの音になるまで繰り返す。
このように、ただ機械的に音を繰り返すのではなく、感覚フィードバックを用いた「エラー認識と自己修正」のプロセスを繰り返すことで、運動学習(大脳皮質の可塑的変化)が定着する。
7. 実用的なコミュニケーションと支援者の連携アプローチ
構音障害リハビリテーションの究極の目的は、単に「個別の音素を綺麗に発音すること」ではなく、実際の社会生活における「実用的コミュニケーションの維持・再構築」である。完璧な構音を求めるあまり、患者が話すこと自体に恐怖や疲労感を覚え、自己表現の意欲を失ってしまえば、リハビリテーションの本質は損なわれる。
聞き手(コミュニケーション・パートナー)の対話技術
実生活での会話明瞭度を最大化し、患者の精神的負担を軽減するためには、コミュニケーションを「双方の共同作業」として捉え、周囲の支援者が以下の実践的な聴取技術を共有することが推奨される。
物理的環境の調整: 雑音の多い場所を避け、できるだけ静かな環境で対面して話をする。
発話速度の引き下げ(ペーシング): 聞き手自身がゆっくり話すことで、患者のペースを自然に落とし、明瞭度を確保する。
チャンキング(文節区切り): 「文節ごとに区切って(例:私は/昨日/病院へ/行きました)」短く話すよう促し、呼気圧の減衰を防ぐ。
受容的・積極的な傾聴姿勢: 多少発音が不明瞭であっても途中で遮らず、時間をかけて聞き取る。会話の前後関係や文脈から内容を推測し、「〜ということですね」と意図を確認しながら段階的に進める。
最新の客観的評価技術と機器
現代のリハビリテーション医療では、セラピストの主観的な聴覚判定だけでなく、客観的な数値データに基づく評価とバイオフィードバックを組み合わせた治療が進行している。
舌圧測定器(JMSなど): 舌の動的な最大挙上圧を数値化(キロパスカル:kPa)し、調音や嚥下に必要な筋力(等尺性最大筋力)を客観的に評価・記録する。
ジェントルスティム(咽頭電気刺激装置など): 感覚入力が低下した症例に対し、微弱な電気刺激を用いて咽頭周囲の感覚受容を高め、発声や嚥下反射を惹起・訓練する補助機器である。
急性期から在宅へ:地域医療におけるシームレスな専門職連携
構音障害の臨床実践は、地域の医療機関や専門職がネットワークを形成し、連携することで効果を発揮する。例えば、神奈川県川崎地区においては、以下のような専門的かつシームレスな地域リハビリテーション連携の実例が確立されている。
高度急性期(例:川崎幸病院など)では、脳血管障害のみならず、大動脈瘤手術や心臓外科手術の合併症として発生しやすい「反回神経麻痺(嗄声・声帯麻痺による構音障害)」に対し、耳鼻咽喉科医師や認定看護師、NST(栄養サポートチーム)と早期から連携し、急性期言語聴覚療法や嚥下指導を即座に提供する。
回復期リハビリテーション(例:麻生リハビリ総合病院など)へ移行すると、20名以上の多数の言語聴覚士(ST)が在籍する手厚いリハビリ体制のもと、高次脳機能障害の評価と並行し、iPadなどのデジタルデバイスやゲーム性を取り入れた応用訓練を行い、日常会話への般化を楽しく進める。
維持期・在宅期(例:日本医科大学武蔵小杉病院、聖マリアンナ医科大学病院などの外来や、渡辺クリニックなどの在宅訪問リハビリテーション)では、かかりつけ医によるVF(嚥下造影検査)やVE(嚥下内視鏡検査)などの専門的嚥下・発声検査の結果に基づき、自宅での安全な食事形態の選定とともに、患者の生活スタイルに寄り添ったコミュニケーション方法のアドバイスや家族サポートを行い、生活の質(QOL)の維持向上を社会全体で支援している。
このように、基礎的な生理機能訓練から、客観的な機器評価、心理的な対話サポート、そして地域一体での多職種ライフステージアプローチが統合されることで、構音障害を抱える人々の「伝える力」と「生きる喜び」が真に再構築されていくのである。
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