犠牲者(1947) ソール・ベロー | mitosyaのブログ

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個人誌「未踏」の紹介

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犠牲者(1947)

 

ソール・ベロー  大橋吉之輔 後藤昭次 訳

 

 

7 一般的にいって、ある人が人生の楽しみをすべてもっているときに、もうひとりの人が何もなしにいるということは、きわめて不公平であるということは、だれにでもわかる。しかし、当の二人の人間のあいだでは、この問題はどう考えたらいいのか?あわれな乞食かルンペンが町でひとをつかまえて、しゃべりはじめ、こんなことをいう。「この世界がおれのためにつくられたものでないことはわかるが、それと同様に、なにもおまえのためにつくられたのでもないはずだ。」 「――どこの人もぼくがほんとうはどんな人間であるかを知らない。君がどんな人間かということも同じだ。そういうことがわかったとしたら、それは別の世界のことだろう。ぼくにとっては、ものごとはあまりにも微妙すぎる。ぼくは常識を杖にして道をたたきながら歩いていかなければならない。この女はどうだろう?彼女が自分自身を理解していないのには理由がある。ぼくにはそれがわかっている。ぼくにいえることはただこうだ《ほんとうに、われわれはだれだって欠点をもっていて、あるがままの人間です。現在あるがままの自分をみとめるか、そうでなければ死ぬよりほかはありません――》 16 「――この世界には人が群がっている。じつにひどいものだ。人間が多すぎる。しかし死人の場所もちゃんとある。死者も積み重ねて埋葬されるという。死者はなにもほしがらないから、場所だけは十分にある。――君はカトリックの公教整理のことはあまりくわしくないと思うが、その中にこういう問答がある。《この世界はだれのためにつくられたか?》というようなことだ。その答えはこうだ。《人間のためである。》あらゆる人のためにか?そうだ。あらゆる人間のためにだ。だから人間は神にとって貴重な存在だといえるし。偉大な神の栄光のためにつくられて、この祝福すべき地球全体をさずけられている。――」 「余計なことを人に思い出させる必要はない。だれも、死ぬことを忘れはしない。ただみんないそがしすぎるし、利口すぎるから死ねないのだ。それは簡単にわかることだ。たとえば、ぼくの体はここに坐っていても、心は世界を巡ることができる。ぼくの考えることに限界があるだろうか?しかし、次の瞬間に、この場で死なないとはいえない。ぼくには限界がある。しかし、ぼくは全面的なぼく自身にならなければならない。すなわち、限られたいのちをもっている人間にならなければならない。それが本来のぼくなのだ。――」

 

 

ソール・ベロー

 

 

提供: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

 

ノーベル賞受賞者
受賞年:1976年
受賞部門:ノーベル文学賞
受賞理由:

 

ソール・ベロー(Saul Bellow,1915年7月10日-2005年4月5日)は、アメリカの小説家・劇作家。1915年、貧しいロシア系ユダヤ系移民の子としてカナダのケベック州ラシーヌで生まれる。本名ソロモン・ベローズ(Solomon Bellows)。1924年、家族とともにシカゴに移住。シカゴ大学・ノースウェスタン大学で人類学・社会学を学んだ後、ウィスコンシン大学で人類学の修士号を取得。ミネソタ大学・プリンストン大学・ニューヨーク大学で教鞭をとる。

 

 

大学院在学中より執筆活動をはじめ、1944年、入隊をひかえた男の異常な心理状態を実存主義的な手法で描いた『宙ぶらりんの男』でデビュー。以後、順調に創作活動を続け、『オーギー・マーチの冒険』『ハーツォグ』『サムラー氏の惑星』で全米図書賞を三度受賞し、『フンボルトの贈り物』でピューリッツァー賞を受賞、さらに1976年にはノーベル文学賞を受賞するなど、現代アメリカを代表する作家として活躍した。2005年4月5日、マサチューセッツ州の自宅で死去。89歳。

 

 

著作
小説
Dangling Man (1944) (『宙ぶらりんの男』)
井内雄四郎訳、太陽社、1968
太田稔訳 新潮文庫 1971
繁尾久訳 角川文庫 1972
野崎孝訳 世界文学全集 101 講談社 1976
The Victim (1947) (『犠牲者』)
太田稔訳 新潮文庫 1973
大橋吉之輔,後藤昭次訳 白水社 1979
The Adventures of Augie March (1953) (『オーギー・マーチの冒険』)
渋谷雄三郎訳 早川書房 1981
Seize the Day (1956) (『その日をつかめ』)
現在をつかめ 栗原行雄訳 現代出版社 1970
この日をつかめ 大浦暁生訳 新潮文庫 1971
この日をつかめ 繁尾久訳 角川文庫 1972
その日をつかめ 宮本陽吉訳 世界の文学 33 集英社 1976 のち文庫 
Henderson the Rain King (1959) (『雨の王ヘンダソン』)
佐伯彰一訳 中公文庫 1988
Herzog (1964) (『ハーツォグ』)
宇野利泰訳 早川書房 1970 のち文庫
Mosby's Memoirs (1968) (『モズビーの思い出』)
徳永暢三訳 新潮社 1970
ソール・ベロー短編集 繁尾久訳 角川文庫 1974
Mr. Sammler's Planet (1970) (『サムラー氏の惑星』)
橋本福夫訳 新潮社 1974
Humboldt's Gift (1975) (『フンボルトの贈り物』)
大井浩二訳 講談社 1977
The Dean's December (1982) (『学生部長の十二ヶ月』)
渋谷雄三郎訳 早川書房 1983
Him with His Foot in His Mouth (1984)
More Die of Heartbreak (1987)
A Theft (1989) (『盗み』)
宇野利泰訳 早川書房 1990
The Bellarosa Connection (1989) (『ベラローザ・コネクション』)
宇野利泰訳 早川書房 1992
Something to Remember Me By: Three Tales (1991)
The Actual (1997) (『埋み火』)
真野明裕訳 角川春樹事務所 1998
Ravelstein (2000)
Collected Stories (2001)
エッセイ
To Jerusalem and Back (1976)
It All Adds Up (1994)