平塚武二 「たまむしのずしの物語」 「サギ山」  | mitosyaのブログ

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個人誌「未踏」の紹介

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日本児童文学体系
 

 

 平塚武二

 

 

 たまむしのずしの物語

 

 

 が、仏師とはいえ、名も知られず、どれほどのものになるかもわからぬ若麻呂に、すぐ娘をやってしまうほど、おとめの父も母もおろかではございません。若麻呂がひとかどの仕事をするまでは、娘はやれぬ、まずりっぱな仕事をして、名をあげることがだいじだと申しました。  いわれるまでもなく、名をあげるほどの仕事がしたいと思っていた若麻呂でございます。名をあげれば美しいおとめを妻にすることができると思えば、心おどらずにはいられません。  美しい上にも美しく、美しい上にも美しく、かぎりなく美しいものをつくりあげようとすることだけが、若麻呂のねがいのすべてとなりました。名をあげよう、おとめを妻にもらおうということも、春の野のかげろうのように、きえてしまったかと思われました。  人の力のかぎりをつくす、若麻呂の仕事ぶりは、血をそそぎ、骨をけずると申しましょうか、すさまじいものでございました。  ああ、なんと美しい玉虫のすがた。からだも足も、金のようにかがやくみどり、ひげは黒かとも見えるこいあいいろ。せなかをつらぬいてはしるむらさきの二本のすじ。そのむらさきのつやつやしさ。見れば見るほど、これが虫とは思われません。虹がくだけて、そのひとかけがこぼれおち、いのちをうけて虫となったとでも申しましょうか、見ほれるばかりでございました。  ああ、なんとこの世は、ふしぎな、そして美しいものにみちみちていることでございましょう。草のかげにも、土の中にも、くさった肉や、どろ水の中にでも、美しいものがひそんでいるのでございます。しかし、美しいものが美しいことばかりとはいえず、みにくいものからもうまれ出し、おそろしいものに形をかえ、また、みにくいものがみにくいとばかりはいえず、美しいものからもうまれ出し、すばらしいものに形をかえるのでございます。  いまこそ若麻呂は、美しいもののまことを見ました。神を見ました。ほとけを見ました。いや、神をこえ、ほとけをこえた美そのものを、はっきりと見ることができました。 ●芸術至上ではない、自然裡な魂の自由さがある。

 

 

 

 サ ギ 山  ヨコハマに、サギ山という山があります。山といっても、高い山ではありません。むかし、そのへんに、サギ(鷺)がいたのでしょう。こんもりとした丘です。  この丘に、アメリカ人の家や、イギリス人の家や、フランス人の家や、ドイツ人の家や、オランダ人の家や、インド人の家や、いろいろな外国人の家が、いくつも、いくつも、建っていました。  今から三十年ばかり前のことです。   ヨコハマの 名所を   知らない おかたに   ヨコハマの 名所が   知らせたい   日本はとばに 公園地   野毛の 山では   大神宮では   朝のたいこが ドンドン  サァボウのおとうさんも、前の世界戦争のとき、エムデンというドイツの潜水艦に、のっていた船を沈められて死にました。  クンちゃんは、せんたくやのリイちゃんをおよめさんにもらって、こどももできて、しあわせにくらしていましたが、こんどの戦争で兵隊にとられて戦死しました。  ヨコハマは大地震でやけ、ビヤダケのえんとつはたおれ、それから、また、こんどの戦争の空襲ですっかりやられて、サギ山の異人やしきも、ふもとの家も、何もかも、なくなってしまいました。 ●「二十四の瞳」のような、ヨコハマの歴史

 

 

 

平塚武二

 

 

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

 

平塚 武二(ひらつか たけじ、1904年7月24日 - 1971年3月1日)は、日本の児童文学作家。

 

 

神奈川県横浜市生まれ。青山学院高等部卒。鈴木三重吉に師事し、1942年、童話集『風と花びら』を上梓。戦後も活動を続け、古典や神話、歴史に取材した作品に優れたものがあり、『馬ぬすびと』『ものがたり日本の歴史』で知られる。

 

 

創作風と花びら 帝国教育会出版部, 1942 のち岩波少年文庫
海のふるさと 泰光堂, 1943
歌とをどり 東榮社, 1944
太陽よりも月よりも 大日本雄辯會講談社, 1947 のちフォア文庫
にじが出た 国民図書刊行会, 1948
ミスターサルトビ 季節社, 1948
太郎と影 桜井書店, 1948
からすカンザブロウ 講談社, 1950
中を見よう 新潮社, 1950
なかよしなかよしスプーンくん 三十書房, 1952
パパはのっぽでボクはちび コスモポリタン社, 1953 のち岩波少年文庫
ガタガタ学校と花風先生 泰光堂, 1954
世界の国王物語 実業之日本社, 1954
ものしりねこちゃん 実業之日本社, 1955
星の子 講談社, 1958
金の川の王さま 講談社, 1958
おかっぱさん 麦書房, 1958
かにとこいし 麦書房, 1959
ものがたり日本れきし 1-10 偕成社, 1961
のぎくのなかのじぞうさま 実業之日本社, 1963
ながれぼし 実業之日本社, 1965
いろはのいそっぷ 実業之日本社, 1965 のちフォア文庫
日本の国づくり 聖徳太子物語 学習研究社, 1967 (物語日本史 1)
馬ぬすびと 福音館書店, 1968 のちポプラ社文庫
タケヤブ村のトラヒゲ先生 国土社, 1969
玉虫厨子の物語 学習研究社, 1969 のち偕成社文庫
姫の日記 わたしの更級 童心社, 1970
よみのくに ひかりのくに, 1971 (にほんのしんわ 1)
平塚武二童話全集 1-6 童心社, 1972
ヨコハマのサギ山 あかね書房, 1973