今日は私がパンチパーマと成人式を迎えた東京を離れ、神戸へ行った理由を書かせて戴きます。


当時24歳の私は、仕事にも慣れてきて、厳しい調理場内でも「人間扱い」されるように成っていました。


入ったばかりの頃は喋ってよい言葉は「はいっ」「すいません」「わかりました」位の

まるで昔の軍隊のように感じた調理場も、段々と仕事も覚えて動ける様になって来ると、回りの先輩の扱い方も変わってきます。


そんな中元々「フレンチ」がやりたかった私は、その会社の「フランス料理店」へ移動し

当時他のホテルを辞めてきて、後には三ツ星まで採ったフランス人シェフの下で働く事が出来て「さあこれから」と思った矢先、他の部署から自分より前に入社した先輩が「移動」してきた事により私が又他の店への移動する事になり、大きな会社では中々自分のやりたい仕事はさせて貰えない事を知り、一からフレンチを勉強したいと思い、先輩に相談しました。


そこで紹介されたのが私も以前一度だけそのシェフが東京に居る時に食べ歩きに伺った事の有る人が「神戸」のフレンチレストランでヨーロッパから帰ってきてシエフを

しているので、会いに行ってみたら?と言うものでした。


「え~っ神戸ですか~?」当時東京に居る料理人から観れば、まだまだ神戸は

「遅れている」という勝手な思い上がりと、思い込みがありました。


そのシェフに「東京のフレンチ」を紹介して貰うつもりで、11月の有る日神戸まで食べ歩きがてら

行き、そのシェフに会って色んな料理への情熱や思い入れ、又私の考え方を聞いて戴くうちに、「思い切って神戸に来てみる?」と言って頂きました。

「でも、自分は西洋料理の基本は少しは学びましたが、フレンチに関しては学校で習った以外は知らないも同然ですが大丈夫でしょうか?」


と言う私の不安に「料理を教えるのは僕の仕事だから大丈夫。それよりも人間には

素直な心で教えを受けられるか?の方が大切なんだよ。」と七歳しか年上ではない

シエフの言葉に、「それだけは自信があります」と今から考えれば恥ずかしげも無く

偉そうに言い放っていました。

事実自分では、今の歳ならば、例え又皿洗いから始めてもへんなプライドも無いし、

年下から「呼び捨て」にされても我慢できるだろう。とは考えての移籍でしたが。


この出会いが生涯の自分の「師匠」との出会いとなり、翌年の2月から神戸で働き始めました。


働いてみて驚いた事に、当時シェフとそのひとつ年下のス-シェフ以外は全員が私と同じ歳の経験者ばかり、過半数はフランス研修も積んでいる人でした。

「同じ歳とはいえ、俺の方が後輩だから丁寧に敬語を使わなければ」と覚悟を決めての出社。所が、全員がお互いを「さん付け」で呼び合い、お互いを尊重し合って仕事をしているのです。

勿論後から入った私にも、「日本の洋食とか西洋料理のこと教えて下さいね」と、

丁寧な物言いに驚きました。


それまで働いていた東京の老舗は「一日でも早ければ先輩なんだからなっ」

という雰囲気の中、事実年上の後輩に「偉そうに」指示していた私が居ました。


「厨房と言うのは、上に立つ人の考え方ひとつでこんなにも違うものか?」と教えられ

お互いが相手を「リスペクト」して臨む仕事の心地よさを教えられました。


但し、シェフからは「君は他の子たちよりフレンチのスタートが遅い分だけ、三倍は努力しなければ追いつけないよ」と言われ、「その分私も濃密に仕事を教えるから覚悟しなさい」と言われました。


元々人一倍不器用な私は、昔から「努力」で補わなければ「人並み」に慣れませんでしたから、「望むところ」でした。


それからと言うもの「君にとって一番苦手な仕事はなんだ?」と聞かれ「魚をおろすのが苦手です」と言えば、「じゃあ明日から毎日魚は君がおろしなさい」とやらせてくれ、

私が得意な分野の仕事は「こんなんやらせたらあんたは天下一品やね~」

と褒めてのばして貰いました。


ですから今でも私は、自分の部下に教育する時には「出来るだけその人の長所を伸ばすように」を心がけています。勿論厳しい時は「鬼にも成ります」が、


今でもその師匠とは関西に帰る度に顔を出したり、メニューに悩むと「シェフなんか良いソース有りませんかね~?」と甘えさせてもらってます。


料理だけでなく、「人を敬うという事」「人間にはそれぞれの才能が有ること」

「人は個性に合わせて育てなければいけないという事」を教えて戴きました。


まだまだ師匠には及びませんが、「私はあんたに料理は教えたけど、話術はあんたに習ったんやで~」と何時も会うたびに言われます。

そりゃ~そうでしょう。だって私は「口から先に生まれた男」ですからね~。

我が家の最強なかみさんからも「何か私は毎日が落語の時うどんのように騙されている気がするわ~」といわれていますよ。


「それはお前の気のせい、気のせい、へっへ~~っだ」