私がお邪魔させていただいている ぞうのはな様 の所で公開していた
記念フリー作品 いただいてきたので 御紹介させていただきます。

















それは誤解か本懐か(後編)【10000Hitフリー】
2013/03/25 (Mon)

短編

こんばんは!ぞうはなです。

すっかり間があいてしまいまして、もーしわけありませんでしたー!

週末、今シーズン最後のスキーに行ってまいりました。
雪もべたべたびしゃびしゃで、でも上の方だけ凍ってゴリゴリで、春でしたね…。スキー場から降りてくると春らしい装いの人とすれ違ったりして、なんだか自分が季節はずれな感覚でした。

さて、本日は1万ヒットお礼のフリー作の後編です。
ああ、まとまりが・・・・・・・・・・・・・・

こんなフリー作ですが、よろしければご自由にお持ちくださいませ!



蓮からのキョーコの距離はますます開き、社もドラマ撮影の際には「あれ?」と感じるようになっていた。担当俳優は機嫌が悪いのであろう、その分微笑みがまぶしくて怖いし、キョーコはなんだか日増しに元気をなくしているような気がする。2人ともさすがプロなので、撮影に支障をきたすようなこともなく、周りに気づかれることもないが、特に蓮の機嫌が悪いのは自分の精神衛生上もよくないし、何より原因はほぼ間違いなくキョーコのため、今後放っておいて収まるとも思えない。今現在は蓮の機嫌の悪化もドラマの撮影現場に限られているが、そろそろ他にも飛び火しそうな気配すらある。

そして何よりも、ここしばらく、ドラマの撮影現場に入るとなんとなく視線が突き刺さる。様な気がする。
社は、自分はマネージャーと言う立場のため、できる限り現場では存在感を消して蓮のサポートに徹しているつもりなのだが、なんだかやたらとスタッフに気を遣われている気がするのだ。蓮の不機嫌、キョーコの態度の変化、周りの不自然さと3つの要因が重なって、社の精神も限界に近かった。


「蓮、どうしたんだよ、笑顔が怖いぞ」
撮影スタジオで周りに人がいないタイミングを見計らって、社は横に並んだ蓮に顔を向けずに声をかけた。
「別に、いつも通りですけど」
蓮は前を向いたまま即答する。予想通りの答えが返ってきて、社はため息混じりに言葉を吐き出した。
「自分でもいつも通りだなんて思ってないくせによく言うよ…原因はキョーコちゃんか?」
「なんでもかんでもそこに結び付けないでください」
「なら、このドラマの現場でだけそんなにぴりぴりしたオーラを振りまくのはやめろ!制御できないんだったら、いっそのこと吐き出せばいいだろうが!」
「…仕事には影響は与えませんから」
「俺に与えてるんだよ!いや、俺に吐き出されるのは別に構わないんだけどさ。キョーコちゃんが怯えて近づかないのは、いいのか?」
蓮はようやっと笑顔を引っ込めると、盛大にため息をついた。
「逆ですよ、社さん……最上さんに距離を置かれるのでどうしたらいいのか分からないんです」

最初からそう言え!と吐き捨ててから、それでもやはり社は2人の仲を応援しているだけあり、すぐに思案モードに入った。
「お前がなんかした訳じゃないのか?」
「何もしてませんよ…」
「大体お前、距離置かれたくらいですぐ不機嫌になるんじゃ、キョーコちゃんも可哀想だろうが」
「……それだけではありません」
「なんだ?」
「ここのスタッフ…の一部が、社さんと最上さんをくっつけようとしてるんですよ」

「は???」
大声で聞き返してから、社は合点が言ったように「ああ、それで!」と叫んだ。近くにいた共演者やスタッフが社に注意を向けたため、慌てて声のトーンを下げる。
「道理で最近なんか変な雰囲気だと思ったら…それか!何で言わないんだよ、そんな大事なことを!!」
「……」
「お前まさか、俺を疑っていた訳じゃないだろうな」
「それはありませんが…なぜか強制的に俺も社さんを応援するような話になってしまって、同時に最上さんがよそよそしくなったので」
「キョーコちゃんの気持ちを深読みしたのか?…何やってんだよ、告白もできないで片想いで見守ってるだけのくせに!!」
「社さん…今日は言葉に遠慮が無さ過ぎませんか…」
「俺だってここのところ神経使いすぎて胃がおかしいんだ!それくらい言わせろよ、まったく」
社はぷりぷりと怒っていたが、ふと何かに気がついた。
「ん?キョーコちゃんが距離を置いたのが、お前が話を聞いたのと同時?」
「はい…大体同じくらいのタイミングだったと思いますが」
蓮は少し考えながらもはっきりと答える。

「お前まさかそれ…その話を、キョーコちゃんも聞いてるんじゃないのか?」
「え?」
「スタッフたちが俺とキョーコちゃんをまとめようとするなら、蓮を使って俺をけしかけようとしたみたいに、キョーコちゃんに何か言っててもおかしくないよな?」
「まあそれは有り得ますね…」
蓮の脳裏にはあれこれ裏で画策しているスタッフたちの顔が思い浮かぶ。皆、仕事熱心な人たちだが、確かにお節介な一面を過分に持ち合わせている気がした。親戚に1人はいそうなお節介焼きおばさんのタイプだ。

「もし、もしもだ。キョーコちゃんが、蓮が俺とキョーコちゃんの仲を応援してる、て誰かから聞いてたとしたら?」
社は真剣な顔で、ことさら声を潜めて人差し指を蓮の胸に突きつけた。
「はい?」
蓮は怪訝な表情で社を見返した。
「ああ、お前、肝心なところで鈍くてどうする!キョーコちゃんが少しでもお前に気持ちが揺らいでたら、そういう話聞いてどんな気持ちになるんだよ。俺のことを応援できるくらい、お前の心に自分はいない、て思って、落ち込むんじゃないのか?」
蓮はぱちくりと目をしばたかせて社の事を見ている。

「お前…あんなに頑張ってキョーコちゃんと接点持とうとしてるのに、そういう可能性は思いつかないのか」
「いや、だってまさか。あの子は俺の事を先輩としてしか…」
「見てないと言い切っちゃっていいのか?お前の努力が少しずつでも実を結んでるかもしれないんだぞ?」
「…そうだとしたら……」
蓮の顔から動揺が消える。社もそんな蓮を見て、黙って頷いた。


「最上さん、ちょっと、いいかな?」
昼休憩のタイミングで、蓮はキョーコに声をかけた。途端にキョーコの肩がびくりと跳ね、おそるおそる振り返った顔からは血の気が引いている。
「は、はひ、なんでしょうか」
「少し、話したいんだけど」
「あ、あの、ちょっと私……あの、すみません、ごめんなさい、ちょっと、後で…!」
心の準備ができていなかったキョーコは、蓮からピリピリとした雰囲気が消えていることに気がつく余裕もなく、後ずさると、くるりと踵を返して走り去ってしまった。
「蓮!一呼吸置いてから来い」
後を追おうとした蓮を腕で制して、鋭く小声で一言残すと社が後を追う。
走り去るキョーコとそれを追う社。社応援隊のスタッフたちは心の中で悲鳴や歓声を上げ、社を応援しながら2人の姿を見送ったのだった。

スタジオを飛び出して中庭まで走ってきてしまったキョーコだが、中庭は建物で囲まれていてこれ以上行く場所がなかった。

バカみたい…なんで飛び出してきちゃったのかしら…

衝動的に取ってしまった自分の行動を情けなく思いながら足を止めると、すぐに後ろから声がかかる。しかしその声は予想していたものではなかった。
「キョーコちゃん、ちょっと待って!」
「…やしろさん?」
「なんで逃げちゃうの、キョーコちゃん」
軽く息を切らして追いついた社は一つ息をついて、少し困ったような笑顔をキョーコに向けた。
「あの、ごめんなさい…」
「謝ることじゃないんだけどさ。そんなに蓮から聞きたくない事って、何?」
「それは…」
キョーコは衣装のスカートを握りしめて俯く。社は、あの話を知っているのだろうか…?
「キョーコちゃんが思っているような事、蓮の口からは絶対に出ないと思うよ」

え?とキョーコが顔を上げると、社の向こうにもう一つの人影が見えた。黒い髪を風になびかせて歩いてくる姿を見て、キョーコの足がぴくりと動いたが、社がそれを制するように蓮に声をかけた。
「なあ蓮。お前、俺の応援してくれるのか?」
「…社さんには大変お世話になっていて、応援でもなんでもしたい気持ちはありますが……この件に関してだけは絶対にできません」
ね?と社は笑顔をキョーコに向けると、そのままゆっくりとキョーコから離れ、蓮と位置を交代した。一瞬だけ蓮と目を見かわし、そのままスタジオの方へと戻って行く。

キョーコは目をまん丸く見開いて、逃げることもできずに蓮を見上げた。蓮もそんなキョーコをじっと見つめていたが、やがてぽつりと口を開く。
「社さんと最上さんの恋を応援?…とんでもない。そんなこと、出来る訳ないよ」
「え、だってスタッフさん達が…」
「彼女たちが勝手に盛り上がって、変な役を押し付けられたけどね」

蓮は両手を広げてくすりと笑うと、上半身を少し折ってキョーコに顔を近づけた。
「なんで、好きな子と他の男の仲を応援しなくちゃいけない?」
「え……えぇ?好きな子って…」
「この話の流れで、最上さん以外いないだろう」
「だ、だって…私は射程外って言ってたじゃないですか」
「誰がいつそんなことを言ったって?」
「この間…メイク室の前通った時聞こえました!」
「……ああ」
「ほら、言ったじゃないですか」
「俺じゃないだろう?」
「はい?」
「それを言ったのは、俺じゃなくてスタイリストの女性だったはずだ」
「な、そんな!だって!!」
「俺は一言もそんなこと言ってないし…社さんの応援をするとも言ってないのに君は…」
胸の前で握りあわされていたキョーコの両手を、蓮の両手が包んだ。そのまま、下げた蓮のおでこにその両手が押し当てられる。

「君に…君に避けられるだけで……俺の気分は簡単に揺れるんだ…」
「な、なんで…」
「それなのに、最上さんと他の男が付き合うのを平気な顔して見られると思う?」
「思ってました!!」
キョーコは叫ぶように言った。その声は少し震えて、泣いているようにも聞こえる。
「私なんて敦賀さんにとってはただの後輩だって、そう思ってました!だって、いつも子供扱いされて…!」
「子供扱いなんてしてないよ」
「してます!私には何もしないって言ってましたし、現に…」
「俺が君に何もしてないって?」
「……」
「していいなら、するよ?…今すぐに、ここででだって」
「だ……だめですぅー!」

しかしキョーコが気がついた時にはすでにがんじがらめに巻きつかれていて、それはキョーコにとっては十分『なんかされた』状態だった。


どうにかこうにかお互いの気持ちが伝わり、蓮とキョーコの仲はまとまり、社はほっと胸をなでおろしたのだが…
一部始終を社応援隊のスタッフたちにこっそり覗かれていて、なおかつ会話は聞かれていなかったため、『社さんと敦賀君で京子ちゃんをめぐって静かな戦いが繰り広げられていた!』とか、『いや、敦賀君が強引に奪い取ったのよ!』とか、『社さんが涙をのんだんだ!』などの迷惑な噂が駆け巡り、結局撮影が終わるまで、ひどく同情されてしまった社の胃が休まることはなかったのだった。