「江戸末期に作られた車箪笥の修復 2」
この回から車箪笥の修復作業を紹介していきます。
この箪笥は長期間蔵の中に収蔵されていました。
その過程で湿気にさらされて、鉄製の取手や丁番などは酷く錆びていました。



厄介なのは赤錆で、このまま放置すると腐食が進行してボロボロになって、
金物本来の役割を果たせなくなります。
赤錆を薬品で除去して、取りきれない部分は赤錆を黒錆に変換する薬品で
処理する必要があります。
黒錆は安定した状態で、それ以上錆が進行しなくなります。
通常金属パーツを修復する際は家具本体から取り外して、心置きなく処置できるのですが、この箪笥の金物は鉄の釘で固定されていて、その釘が赤錆でもろくなっている上に木部と癒着していて、取り外そうとすれば折れてしまいます。
この修復は治す事と同時に保存する事も大きなテーマなので、現状を悪化させる方法を使うわけにはいきません。
なので薬品が木部に付着しないようマスキングテープで金物の周りを保護しました。




曲線の多い金物がたくさんあったので、とても時間のかかる作業です。
すべての処置が終わった状態です。



赤錆は除去されて、状態のよい古い鉄の黒さになりました。
続きは次回で。
コレクションの台座制作
今回は、生徒さんが製作したコレクション展示用台座をご紹介します。
製作は、事前に用意した設計図をもとに、材料の製材からスタートしました。
使用した木材は硬くて耐久性の高いホワイトオーク。
まず角材を旋盤で棒状に加工します。
次にデザインを写し、形状を削り出します。
サンディングをした後、旋盤から外して切り離します。
台座部分は支柱が差し込まれる穴を開け。トリマーで縁加工を施しました。
サンディングを終えたら次は塗装です。
塗装には、水性ステイン(染料)の「Water Crystals Walnut」(イギリス製)を使用しました。
この水性の染料は水で溶いて濃さを調整できるため、今回は木目を活かしつつ、落ち着いた深みが出るよう濃度を調整しています。
乾燥後、軽くサンディングを行い、その上からニス塗りへ。
ニスは数回に分けて塗り重ね、しっかりとした塗膜を作ります。
最終工程ではニスのテカテカな光沢を抑えるために、スチールウールで
研磨して塗装面に細かい傷をつけて、ワックスをかけ、全体を丁寧に
拭き上げて完成です。
クラシカルで存在感のある台座に仕上がりました。
鈍いツヤがどこか古めかしい雰囲気です。
この時点では、「何が飾られるのか」は私も聞かされていなかったのですが、
後日、コレクションが飾られた写真が送られてきました。
台座に設置されていたのは、サーベルタイガー(スミロドン)の頭骨化石。
元々は3Dプリンターで制作された台座がセットされていたそうですが、
デザインがシンプルすぎたため、今回あらためて木製で制作したとのことでした。
元の3Dプリンター台座
木製台座
確かに元の台座は無機質で安っぽく見えてしまいます。
今回製作した台座はヨーロッパの古い博物館で使われているような
スタイルなので、より考古学的な価値があるように見えますね。
飾り方は大事です。
「江戸末期に作られた車箪笥の修復 1」
珍しく日本の家具の修復をしました。
ケヤキ材で作られた車箪笥です。

江戸末期に北陸地方で作られた箪笥です。
お薬屋さんのために特注で作られ、そのまま一度も売却もされず、一度も
修復もされずに保管されてきたとても貴重な家具です。
ヨーロッパのアンティーク市場の価値基準から見ても、とても貴重な条件を
満たしています。
どこでいつ作られたか?がわかっていて、一度も修理や修復がされていないので、作られた時のままの状態で保存されている。
この状態だと、古美術品としての価値が高くなります。
箪笥の状態を見てみましょう。

天板はケヤキの一枚板で、幅は1m近くあります。
かなり太い丸太から切り出された材料です。

天板は釘で固定してあります。
この方法で無垢板を固定すると、年月と共に天板が乾燥して収縮する動きを
釘が止めてしまうので、画像のように釘の周りの木が割れてしまいます。




鉄製の取手や鍵もとても複雑な造形です。
錆が全体に見られます。



お薬を保管する用途のため、引き戸の中にもたくさんの引き出しがあります。
鍵付きの引き出しが多いのも特徴です。

画像の小さい白木の引き出しは、桐板で作られています。
桐材は防虫効果を損なわないよう塗装をしないので、手で触った時に手の脂が木肌に直接付着して酸化することで、表面が黒ずんでいます。
箪笥全体は元々薄く漆塗りしてあったはずですが、長い年月を経て漆は
ほとんど無くなっています。
代わりに様々な汚れが箪笥全体を覆っています。

汚れの下には150年以上手付かずの美しい古色があるのが見て取れます。
この古色がこの家具の価値を決める最大の要素の一つになります。長い年月をかけてしか作られない、新品の家具では作れない色だからです。
この修復では主に、鉄部の赤錆を落として保存性の高い黒錆に変換する。
古色を落とさないように全体を徹底的にクリーニングして、漆で再塗装する。
古色はカンナがけや、サンディングで簡単に落ちてしまうので、今回は刃物やサンディングを使わないで修復しました。
次回から修復のプロセスを紹介します。
「ロココスタイルマホガニーセティー(ソファー)の布地張替」
今から20年前に、特注でデザイン、製作したロココスタイルマホガニー
セティー。
座面の幅が2メートルある3人掛けのソファーです。
18世紀のイギリスでポピュラーだったロココ様式の美しい彫刻が特徴で、
質の良いマホガニー材を使っています。
当時から良いマホガニー材を見つけるのは大変で、材木屋さんに1ヶ月以上
探してもらった記憶があります。
ソファーに張る布地は、ソファーのデザインに合う物を私がいくつか選んで、その中から決めてもらいました。
イギリス製の布地で張ってあります。
20年間ソファーを愛用してくださったお客様から、布地が汚れてきたので
張替たいと連絡をいただきました。
「汚れが目立ちにくい布地にしたい」というお客様の要望をふまえて、前回と同様に私が布地の候補をお客様に提案しました。
決まったのは、私がよく使っているHARLEQUINというイギリスのメーカーの布地でした。
値段は高いですが椅子張り用の布地なので、織りの密度がとても高く耐久性がとても高く、柔らかい手触りがずっと続きます。
張替後です。
ソファーのフレームや彫刻されたパーツなどにガタつきや緩みなどの
ダメージは一切見られなかったので、とてもシンプルな張替でした。
全体が濃い色になってだいぶ印象が変わりました。
マホガニーの彫刻部分との相性も良く、とても喜んでもらえました。
私にとっては自分の作った家具が里帰りしてきたので、20年前の自分の仕事を観察する不思議な機会でした。
作った時の記憶はほとんど無くなっているので、作っていた時とは真逆で
客観的に観察できました。
長く仕事を続けているとこんな楽しみもあります。
「火鉢修復-蓋製作」
前回火鉢の持ち手を修復した生徒さんが、火鉢を使わない時期に使用する
蓋を製作されたので紹介します。
火鉢と同じ欅材を製材し、サイズ感を確認します。
蓋には縁起物の「松葉」と「亀甲」を組み合わせたデザインを透かし彫りで
入れるため、型紙を用意します。
通常デザインを材料に写す時はカーボン紙を使用しますが、今回のように細いデザインを写す時は精度が出ないため、デザイン画をクリアファイルに貼り付け、デザインカッターで切り抜いたものを型紙として用意しました。
糸鋸でデザインを切り抜き、面取り後、透かし彫り部分を彫刻刀やナイフ、
ヤスリで整えて下地の完成です。
次に柿渋と漆を使った塗装を施していきます。
柿渋を2回塗った状態
乾燥後、表面が毛羽立ちをサンドペーパーで整えます。
次に「拭き漆」をしていきます。
最初に「漆」と「テレピン油」を1:1で合わせたものを塗って乾燥させます。
乾燥したら2度目の漆を塗っていきます。
2度目からは漆は希釈せず、薄く伸ばした後、布を丸めたタンポで円を描くように木目に漆を擦り込みます。
2~3分後、表面に漆が残らないようキレイな布で拭き上げます。
この作業を3回繰り返しました。
一般的な塗料のように溶剤や水分が蒸発して乾燥する揮発乾燥や、空気中の
酸素と反応して硬化・乾燥する酸化重合乾燥とは異なり、空気中の「水分」を
利用して硬化する漆の乾燥には「漆室」が必要です。
おおよそ温度20度、湿度70%の環境で約1~2日かけて乾燥させます。
簡易的には段ボール箱に濡れタオルとスノコを敷いて、その上に漆を塗った
物を置いて乾燥させます。
拭き漆が完了しました。
下地に柿渋を塗ったため、火鉢本体と比べて色味が赤いですが、時間が
経つと黒っぽく変化していくと思われます。
煙草入れのツマミの「柘榴」デザインに、松葉、亀甲と縁起の良いデザインの
火鉢になりました。
アンティークショップや骨董市で見つけた、ちょっと訳ありの古道具も、
少し手を掛ければ実用の姿を取り戻し、ぐっと愛着が深まります。
これでオフシーズンでも灰が舞い上がりにくく、インテリアとして飾って
楽しめそうですね。
















































