コレクションの台座制作
今回は、生徒さんが製作したコレクション展示用台座をご紹介します。
製作は、事前に用意した設計図をもとに、材料の製材からスタートしました。
使用した木材は硬くて耐久性の高いホワイトオーク。
まず角材を旋盤で棒状に加工します。
次にデザインを写し、形状を削り出します。
サンディングをした後、旋盤から外して切り離します。
台座部分は支柱が差し込まれる穴を開け。トリマーで縁加工を施しました。
サンディングを終えたら次は塗装です。
塗装には、水性ステイン(染料)の「Water Crystals Walnut」(イギリス製)を使用しました。
この水性の染料は水で溶いて濃さを調整できるため、今回は木目を活かしつつ、落ち着いた深みが出るよう濃度を調整しています。
乾燥後、軽くサンディングを行い、その上からニス塗りへ。
ニスは数回に分けて塗り重ね、しっかりとした塗膜を作ります。
最終工程ではニスのテカテカな光沢を抑えるために、スチールウールで
研磨して塗装面に細かい傷をつけて、ワックスをかけ、全体を丁寧に
拭き上げて完成です。
クラシカルで存在感のある台座に仕上がりました。
鈍いツヤがどこか古めかしい雰囲気です。
この時点では、「何が飾られるのか」は私も聞かされていなかったのですが、
後日、コレクションが飾られた写真が送られてきました。
台座に設置されていたのは、サーベルタイガー(スミロドン)の頭骨化石。
元々は3Dプリンターで制作された台座がセットされていたそうですが、
デザインがシンプルすぎたため、今回あらためて木製で制作したとのことでした。
元の3Dプリンター台座
木製台座
確かに元の台座は無機質で安っぽく見えてしまいます。
今回製作した台座はヨーロッパの古い博物館で使われているような
スタイルなので、より考古学的な価値があるように見えますね。
飾り方は大事です。
「江戸末期に作られた車箪笥の修復 1」
珍しく日本の家具の修復をしました。
ケヤキ材で作られた車箪笥です。

江戸末期に北陸地方で作られた箪笥です。
お薬屋さんのために特注で作られ、そのまま一度も売却もされず、一度も
修復もされずに保管されてきたとても貴重な家具です。
ヨーロッパのアンティーク市場の価値基準から見ても、とても貴重な条件を
満たしています。
どこでいつ作られたか?がわかっていて、一度も修理や修復がされていないので、作られた時のままの状態で保存されている。
この状態だと、古美術品としての価値が高くなります。
箪笥の状態を見てみましょう。

天板はケヤキの一枚板で、幅は1m近くあります。
かなり太い丸太から切り出された材料です。

天板は釘で固定してあります。
この方法で無垢板を固定すると、年月と共に天板が乾燥して収縮する動きを
釘が止めてしまうので、画像のように釘の周りの木が割れてしまいます。




鉄製の取手や鍵もとても複雑な造形です。
錆が全体に見られます。



お薬を保管する用途のため、引き戸の中にもたくさんの引き出しがあります。
鍵付きの引き出しが多いのも特徴です。

画像の小さい白木の引き出しは、桐板で作られています。
桐材は防虫効果を損なわないよう塗装をしないので、手で触った時に手の脂が木肌に直接付着して酸化することで、表面が黒ずんでいます。
箪笥全体は元々薄く漆塗りしてあったはずですが、長い年月を経て漆は
ほとんど無くなっています。
代わりに様々な汚れが箪笥全体を覆っています。

汚れの下には150年以上手付かずの美しい古色があるのが見て取れます。
この古色がこの家具の価値を決める最大の要素の一つになります。長い年月をかけてしか作られない、新品の家具では作れない色だからです。
この修復では主に、鉄部の赤錆を落として保存性の高い黒錆に変換する。
古色を落とさないように全体を徹底的にクリーニングして、漆で再塗装する。
古色はカンナがけや、サンディングで簡単に落ちてしまうので、今回は刃物やサンディングを使わないで修復しました。
次回から修復のプロセスを紹介します。
「ロココスタイルマホガニーセティー(ソファー)の布地張替」
今から20年前に、特注でデザイン、製作したロココスタイルマホガニー
セティー。
座面の幅が2メートルある3人掛けのソファーです。
18世紀のイギリスでポピュラーだったロココ様式の美しい彫刻が特徴で、
質の良いマホガニー材を使っています。
当時から良いマホガニー材を見つけるのは大変で、材木屋さんに1ヶ月以上
探してもらった記憶があります。
ソファーに張る布地は、ソファーのデザインに合う物を私がいくつか選んで、その中から決めてもらいました。
イギリス製の布地で張ってあります。
20年間ソファーを愛用してくださったお客様から、布地が汚れてきたので
張替たいと連絡をいただきました。
「汚れが目立ちにくい布地にしたい」というお客様の要望をふまえて、前回と同様に私が布地の候補をお客様に提案しました。
決まったのは、私がよく使っているHARLEQUINというイギリスのメーカーの布地でした。
値段は高いですが椅子張り用の布地なので、織りの密度がとても高く耐久性がとても高く、柔らかい手触りがずっと続きます。
張替後です。
ソファーのフレームや彫刻されたパーツなどにガタつきや緩みなどの
ダメージは一切見られなかったので、とてもシンプルな張替でした。
全体が濃い色になってだいぶ印象が変わりました。
マホガニーの彫刻部分との相性も良く、とても喜んでもらえました。
私にとっては自分の作った家具が里帰りしてきたので、20年前の自分の仕事を観察する不思議な機会でした。
作った時の記憶はほとんど無くなっているので、作っていた時とは真逆で
客観的に観察できました。
長く仕事を続けているとこんな楽しみもあります。
「火鉢修復-蓋製作」
前回火鉢の持ち手を修復した生徒さんが、火鉢を使わない時期に使用する
蓋を製作されたので紹介します。
火鉢と同じ欅材を製材し、サイズ感を確認します。
蓋には縁起物の「松葉」と「亀甲」を組み合わせたデザインを透かし彫りで
入れるため、型紙を用意します。
通常デザインを材料に写す時はカーボン紙を使用しますが、今回のように細いデザインを写す時は精度が出ないため、デザイン画をクリアファイルに貼り付け、デザインカッターで切り抜いたものを型紙として用意しました。
糸鋸でデザインを切り抜き、面取り後、透かし彫り部分を彫刻刀やナイフ、
ヤスリで整えて下地の完成です。
次に柿渋と漆を使った塗装を施していきます。
柿渋を2回塗った状態
乾燥後、表面が毛羽立ちをサンドペーパーで整えます。
次に「拭き漆」をしていきます。
最初に「漆」と「テレピン油」を1:1で合わせたものを塗って乾燥させます。
乾燥したら2度目の漆を塗っていきます。
2度目からは漆は希釈せず、薄く伸ばした後、布を丸めたタンポで円を描くように木目に漆を擦り込みます。
2~3分後、表面に漆が残らないようキレイな布で拭き上げます。
この作業を3回繰り返しました。
一般的な塗料のように溶剤や水分が蒸発して乾燥する揮発乾燥や、空気中の
酸素と反応して硬化・乾燥する酸化重合乾燥とは異なり、空気中の「水分」を
利用して硬化する漆の乾燥には「漆室」が必要です。
おおよそ温度20度、湿度70%の環境で約1~2日かけて乾燥させます。
簡易的には段ボール箱に濡れタオルとスノコを敷いて、その上に漆を塗った
物を置いて乾燥させます。
拭き漆が完了しました。
下地に柿渋を塗ったため、火鉢本体と比べて色味が赤いですが、時間が
経つと黒っぽく変化していくと思われます。
煙草入れのツマミの「柘榴」デザインに、松葉、亀甲と縁起の良いデザインの
火鉢になりました。
アンティークショップや骨董市で見つけた、ちょっと訳ありの古道具も、
少し手を掛ければ実用の姿を取り戻し、ぐっと愛着が深まります。
これでオフシーズンでも灰が舞い上がりにくく、インテリアとして飾って
楽しめそうですね。
火鉢修復
生徒さんが骨董市で購入した欅(ケヤキ)材で作られた
小型の「帳場火鉢(手炙り火鉢)」
江戸時代後期から明治時代にかけ、帳場火鉢は商家で帳場に置かれ、商談や
事務作業をしながら暖を取るために使われた火鉢だそうです。
煙草入れの摘みが子孫繁栄の象徴「柘榴」の意匠で可愛らしいです。
指物師によって作られた小さな箱の世界の中に、用途に合わせた無駄のない
構造と、緻密な木の加工技術が見られます。
昔の人が日常で使っていた道具ですが、日本の木工技術の高さや、デザイン性を良く表している骨董品です。
今回は無くなっていた持ち手の一部を修復していきます。
幸い反対側の持ち手のパーツは残っていたので、こちらから寸法を取って
同じ欅材でパーツを作ります。
墨付けは鉛筆やシャープペンシルでは線が太くなり
精度が出ないのでナイフで墨付けをします。
鋸や彫刻刀を用いて加工していきます。
ある程度形状ができところで、火鉢に嵌めて状態を確認しながら
調整をします。
次に彫刻刀で曲面を加工します。
ピッタリ収まりました。
塗装は亜麻仁油でオイル仕上げに。
全体を蜜蝋で拭き上げて修復は完了です。
火を入れる季節が楽しみですね。


































































