幼稚園児ぐらいの頃叔母さんからもらったクレヨンでたくさんの絵を描いた記憶がある。



母や叔母さんの前で色々なものを描いた。


その中でも二人が気に入っていた絵があるのだが、どうもその緑一色で描いた風景が自分たちの故郷に似ているという事だった。


「そういやそんなことあったね…」


母は全く今になるまでそんな話は忘れていたようだ。


「忘れてただろ?ガキの頃だしな…子供なら誰でも描くような絵だ。」


「いや、あれは確かまだとっといてあると思ったけどなぁ…確かこの缶の中に。」


この人には他人から見たらどうでもいいような物でも、自分の印象に残った物をこのお菓子が入っていた缶に詰める癖がある。事実その中に入っているのは俺の目から見てもガラクタばかりだ。



「ほら!あったじゃん!うわー緑!目に良さそうね!」


「またくだらないこと言ってるよ…」


「そうだ!これ佳子のとこ行くとき持っていってあげよう。懐かしがると思うな。」


「今は田舎に戻って住んでるんだから、それ見たって懐かしくはないだろ。」


「そっか!ははは」


俺はふとどこか抜けた所のある母と幼い頃見た全て完璧な佳子おばさんを頭の中で対比してみた。


なんの血が繋がってんだ?


この時旅の出発まで3週間を切っていた。



あんな苦しい想いをするくらいなら行かなければ良かったと今では後悔もしている。


だけど本気で心が壊れる程人を好きになるなんて出来なかった。


彼女に出会うまでは、





続く
あれは高1の夏の話


その年も日本独特の照り返るような日差しで、地面から水蒸気を発するぐらい蒸し暑かった。


8月の初めのある晩のこと。

「そういえばお前はまだ母ちゃんの田舎に行ったことないよなぁ?」


「あ…ああ、うん。」


母のあまりの唐突な質問に言葉が一瞬詰まった。それというのも母の実家とは一種の絶縁状態で俺も顔を見たことがない親戚が大勢いる。それも母がこちらへ出てきた時に「二度と帰らない」と啖呵を切って出てきたからだと聞いていた。


「今年は行ってみない?車ですぐだよ。」


「でも、もう帰らないって言ったんじゃなかったっけ?気まずくないの?」


「ああ、あれね。あの時の親戚の叔父さん叔母さんなんてみんな死んじゃったよ!だからアンタの顔をいとことかに見せたいんだ。」


「ああ、そうなんだ。」

「リアクション薄いなぁー!もっと『行きたい』って感じ見せてよ!」


「急すぎてわからん。でもまぁ行くんなら今月の半ばは空けとくけど。」

「よし!決まり!じゃあばあちゃんの家に住んでる佳子に電話しとくかぁ!」


佳子叔母さんとは小さい頃に一度会ったことがある。ニューヨーク帰りのキャリアウーマンだと聞いていたが、気さくな人だった。





次回へ続く