高市外交の上々の滑り出しに浮かれている間でも、一つ、聞き捨てならないことがあった。日本のメディアでは余り注目されていないようだが、言わずと知れた、韓国の原子力潜水艦(原潜)保有への飽くなき執着である。
韓国にとって原潜保有は30年来の悲願だそうである。李在明大統領が29日の米韓首脳会談でトランプ大統領に直訴し、トランプ氏は翌30日にSNSに「承認した」と投稿した。韓国としては原潜開発を進める北朝鮮に対抗するため、米国としては海軍力を増強する中国を牽制するためと、利害が一致したと言われる。しかし、李氏が自国での建造を望んでいるのに対し、トランプ氏は(韓国の造船大手ハンファグループが昨年12月に買収した)フィラデルフィア造船所で建造することになると述べ、どうも東アジアの安全保障よりも米国の製造業(ここでは造船業)復権が頭にあるようで、同床異夢のようだ。このまま話がすんなり進むとは思えない。
先ず、核燃料を扱うことに対して、核不拡散のハードルが高そうだ。
また、技術的な難題も多そうだ。韓国は独自技術で世界最高水準のディーゼル潜水艦を作れるとハンギョレ新聞が誇らしげに(韓国・国防部が言うがままに)書いていたので、一体、いつからそんなに優秀になったのかと、日本で潜水艦を建造するメーカーの知人に聞いたら、韓国はドイツから技術導入したがモノ造りは静粛性を含めて問題だらけだと笑っていた。また、件の造船所だとしても商船中心の設備のため、核燃料の取扱いや放射線安全のためのインフラ構築が別に必要らしい。韓国は小型モジュール炉(SMR)研究の経験があるようだが、いざ開発、機体設計、システム構築、建造、試験などを含めれば10年はかかるとの見方もあって、米国から完成品を持ち込むことになるのではないかと言われる。
何より、韓国の「意思」には大いに疑問がある。一般に、軍事力(とりわけ抑止力)は「能力」と「意思」の掛け算だと言われる。「能力」がなければ恐れるに足りないし、「能力」があったところで「意思」がなければやはり軍事的に恐れることはない(基本的に日本が(世界最大能力の)米国を恐れないように)。ところが韓国の意思はどうも邪(よこしま)だ。
かつてオバマ政権の頃だっただろうか。韓国が揚陸艦など海軍力を増強しようとしたのを、米国からダメ出しされたことがある。脅威は北の陸にあって、南の海ではないからだが、韓国の隠れた仮想敵は日本とされる。折しも、自民党と日本維新の会の連立政権合意書で、「長射程のミサイルを搭載し長距離・長期間の移動や潜航を可能とする次世代の動力を活用したVLS(Vertical Launch System=垂直発射装置)搭載潜水艦の保有」を政策目標として明記し、小泉進次郎防衛相は10月22日の記者会見で「あらゆる選択肢を排除しない」「抑止力、対処力を向上させる方策を検討したい」と述べた。李氏が日本への対抗心を燃やしたのは想像に難くない。
そもそも原潜と言えば長期潜航能力に特徴があるが、韓国の周辺海域は狭く、黄海に至っては浅く、高価な原潜を作戦運用するのは得策ではないと言われて来た。台湾有事やインド太平洋の秩序の安定にコミットしない韓国に原潜は無用の長物だろう(ポルシェはアウトバーンがあってこそ活かされるように)。北との繋がりが疑われ、中国に頭が上がらない韓国を信用し切っていないのは、日本だけではなく、米国も同様である。
トランプ氏が「承認」したからと言って、国務省・国防総省やエネルギー省などの関係省庁の専門家がおずおずと引き下がるほど、米国の権力構造がヤワとは思えない。トランプ一強なのかそうじゃないのかの試金石になりそうだ。