ここ数年

彼は遠い人だった

肉体は地球にあるけれど

魂はもっと遠くに
高いところにあるよう感じた


三歳からピアノに触れ
天才的な音楽のセンスと才能を持ち
教授と呼ばれ
数々の賞賛と栄誉を手にしても
それとは別の次元で生きているように見えた


音と共に生きる人


晩年の病魔との闘いは
彼をこれまで以上に
音の世界へ誘った

自然の中に溢れる音
雑踏の中に混在する音
そして
日常の微かな音までさえも
彼は愛していたように思う

どんな音にも
分け隔てなく

どんな音にも
美しさを見出した

自分の固定概念を外し
全ての音という音を
受容し
その中に
煌めきをみて
愛しんだ

だからこそ生まれる
彼の
紡ぎ出す一音一音は
美しく崇高であり
心の奥のひだにまで
沁み入るようであり

それは
私にとって
かけがえのないものだった

もう
肉体から
音を紡ぐことはなくとも
きっと空から
美しい音のシャワーを
降り注いでくれることだろう


2023年3月28日

彼は天に召された

坂本龍一

音の中に生きた人