4月4日からTate ModernでスタートしたDamien Hirstの展示に、とうとう行ってきました!!!!!!!始まってすぐにイースターホリデーだったこともあり、初日から大盛況だったようです。ホリデー明け火曜に1番のりで行ったら、ゆっくり見られるだろうという賢い友人のアイディアでチケットを予約。彼の作品にまた会えるのかと思うと、いてもたってもいられず‥朝に弱いはずの私が集合時間より大分早くTate Modernに着いてしまい、オープンまでカフェでエスプレッソを啜るなんてことに。でもそれくらい凄い人なんです、Damien Hirstは!!!!!





Damien Hirstは1965年生まれのイギリス人アーティスト。1988年に初めてアーティストとして展示を行ってから現在に至るまで最も影響力のあり、話題性のあるアーティストの一人として注目されています。現存しているアーティストの中で最もお金を儲けている人でもあります。彼が世に送り出すのはセンセーショナルな作品ばかりなので、アートの枠を超えて議論、批判されることは日常茶飯事。彼の好き嫌いもはっきりと分かれます。

私が初めて彼の作品を見たのは2008年に六本木ヒルズにある森美術館で行われた"History in the Making: A Retrospective of Turner Prize (英国美術の現代史:ターナー賞の歩み展)"で展示されていた牛の親子を真っ二つに切ってホルマリン漬けにした作品。





"Mother and Child (Divided)" (1993) - 写真お借りしました。




半分になった間に入ることが出来るので、体の中がどうなっているのか間近に見ることが出来ます。不思議なことに気持ち悪がっている人はいなかったし、私自身も作品を前に無心になって色々な角度から嘗める様に観察したのを覚えています。初めて美術館で父にAndy Warholを紹介された時と同じ様な衝撃を受けた作品でした。その後もSotheby'sのセールのプレビューやニューヨークの美術館等で彼の作品はちらちら見ているのですが、いつか彼の作品だけを集めた展示を見てみたいなぁ、と思っていました。そして今回初めてロンドンで行われる回顧展。しかも大好きなTate Modern!!!! 興奮しないわけがありません。



一言で感想を言えば、全く期待を裏切ること無く、寧ろ想像していた以上に素晴らしい展示でした。本当によかった。
約70点にも及ぶ主要作品が集合しているのは圧巻です。それに加えてさすが4年間練りに練った展示なだけあって、どの展示室も完成度が高く、キレがありました。彼の初期作品から、ホルマリン漬けの動物達、医療品に焦点を当てた作品たち、スポットペインティング‥本当に網羅されていました。初めて彼の作品を見る人は勿論、彼のことをよく知っている人も満足出来る展示だと思います。


彼の中でも特に問題作である"A Thousand Years"- (本物の牛の頭とハエを密閉された空間入れ、頭が腐っていく経過を見せるというもの) にまさか実際お目にかかれるとは思っていなかったので、もうどうしていいか分からなくなってしまったし、"In and Out of Love"という生きた蝶を放したインスタレーションにも興奮。ほかにも、本物の蝶の羽を何千枚も張り合わせたアートワークやタバコの吸い殻を大量に集めた作品(とても臭います)など‥もう書き出したら止まらないです。本当に。特に蝶の作品はステンドグラスを連想させ、神々しくもありました。個人的に大好きなシリーズです。倫理的なことを考えると作品は全く違って見えるかもしれないけれど、全てのバイアスを外した時、彼の作品は純粋に美しいです。これは否定出来ない事実だと思う。一部の批評家に、もう彼の作品には将来的にアートとしては価値が無いから今のうちに売ってしまうのが賢いなどど言う人もいるらしいですが‥私はそんなこと無いと思うんだけどな。私もいつか蝶のステンドグラス欲しいもの。


「死」を体現化するというのが彼の作品のテーマであるとDamienは語っています。私たち絶対に避けられない命の終わりをどう受け止めるか。インパクトの先にあるメッセージは深くて大きいです。また、無数のダイアモンド(本当はジルコニアらしいですが)や金をこれ見よがしに使った作品は痛いくらいに、人間の富みへの欲望を目の当たりにさせらたような気がします。



今回の展示にあたってアーティスト自身が初めて自分の展示のツアーをするという番組がイギリスで放送されました。そこでDamienが散々死とか欲望とか語った後に「実は言うほど作品に意味は込めてないんだよ。見た人があれこれ言ってくるけど、取りあえず全部同意しておくんだ。」なんてサラッと言ってたのが何よりも衝撃でした。でもアートは見る人の内面を反映するものだから、同じ作品を見ても感じ方は様々だし正しいも間違いも無いと思うので、そういった意味では正しいのかもしれませんが。ツアーをしてもらっている男性は、そこをスルーしていたので個人的にはもうちょっと突っ込んでほしかったですけどね。



その番組の話もしながら友人と2人で盛り上がり、もう満腹!ですが、展示はこれだけでは終りません。世界が注目したあの作品もきているんです。





"For the Love of God" (2007) - 写真お借りしました。




本物の人の頭蓋骨を使用して型を取り、9000個近いダイアモンドで一面を覆ったあの作品。こちらは彼の展示室ではなく、別の特設会場で見ることが出来ます。しかも拝観料は無料です。





真っ暗な空間に置かれたダイアモンドヘッド(と勝手に呼んでいます)は、本当に本当にため息が出る程キレイでした。もうそれ以外説明しようがないという感じ。キレイ。写真とは全然違う!本物は何倍も何千倍もキレイです。



今までまとまって作品を見ることは無かったし、その表現方法にばかり話題が集中してしまいがちでしたが、彼の作品を目の前にした時、ただただその美しさに心奪われる自分にビックリでした。勿論彼はビジネスの戦略家としての面もあるけれど、でもやっぱりアーティストなんだな、と気付かせてくれる展示でもありました。彼の作品は実際に見てこそ、その意味や美しさが伝わってきます。展示は9月まで行われているので、また足を運んでしまいそうです。



Tate Modern
Bankside, London SE1 9TG
Damien Hirst  4 April - 9 September 2012