母は昔から、よく家で果実酒を造っていました。
梅酒やカリン酒、さくらんぼにいちご、など。
仕込んでから最低3ヶ月は漬け込むので、その間の期待度に反比例して出来がよろしくなかった時は、やはり気分は苦いのでしょう。最近は、やっぱり梅酒がおいしく出来て失敗がないということを知ってか、他の果物に挑戦する闘志は見受けられず、精神的なリスクを負うのをやめたかのようでした。

が、先日久しぶりに実家に帰ったところ、新酒の果実酒を発見!
大きな瓶に、青梅よりも一回り大きい果物が、茶色い液体の中にざわざわと漬け込んであります。

「なにこれー」

「シドミ」

「え?なにシドミって?」

「知らん。お父さんがもらってきたから漬けた」


元々、細かいことは気にしない強い母。
私は怪訝に思いながらも一口いただきます。
味は、カリンに近い感じで、酸味と甘みが調和されてなかなかおいしく出来上がっているではありませんか。

「お、いい味出てるよこれー、お酒何入れたの?」

「知らん。これ入れた」

そういって母は、横においてあるパック酒を指さしました。

“サントリーブランデー 果実の酒用”
大きな文字でそう書かれた、2リットル弱入った紙パック。


父が誰かからか貰ってきた知らぬ果物で、何だか知らないけど果実の酒用と書いてあるからこれを買って入れてみたところ、思いのほかおいしく出来上がっていた、自家製シドミ酒。

私は、そんな母の強さが大好きなのです。
そして、抽象的でもあり具体的でもあるこのパック酒のネーミングをつけたサントリーもすごいと、思わずシドミ酒のグラスを持つ手が進んだ夜。

一応調べたら、シドミというのはバラ科の草ボケという植物の別名らしく、ジナシ(地梨)とも呼ばれているそう。なんとなくそんなこともどうでもよくなってくるくらい、母の自家製酒はパワフルなのです。