西麻布の、私のお気に入りのブリティッシュ・パブ。
そこの優しい店長さんが、ショックなことに今月いっぱいで店を辞めてしまうというのです。
辞めてどうするかというと、これまた驚くことに、奥さんと共にUAE(アラブ首長国連邦)に移住するというのです。

ゆーえーいー。
一瞬、頭が白紙になる私。
アラブっていうと、超セレブな都市・ドバイとかがある方だよね...
石油とか天然ガスとか、大富豪が集まる地区........

なんでまた・・・???


自分とは距離的にも経済的にもほど遠い世界へ飛び立とうとする彼。
もはや一瞬にして、私の横にたたずむ彼が、西麻布の一飲み屋の店長ではなく、「異国に住まう人」となってしまったかのような気がしました。
というのも私の中で、パリやニューヨークはパリ、ニューヨークであっても、アラブというのはアラブではなく、「異国」という認識なのです。
ラクダ、三日月、白いターバン。。。
私の持てる少ない情報で想像するゆえ、急に店長が店長ではなく、非現実的な存在の人になってしまったかに思えたのです。


落ち着いて話を聞いてみるとどうやら、彼のお父様がUAE在住で、しかも海運業の会社を経営しているという、かなり特異且つセレブなご一家だったようで、そして最近お父様の体調があまり芳しくないとのことで、彼が会社を引き継ぐことになったということでした。


私は、ふと過去を振り返ります。
あんなに頻繁に店に通っては、店長と談笑していた、私。
なのになぜ、店長と客の一線を超え、男女の間柄になれなかったのか......

私の人生に、‘大富豪の嫁’という思いもよらぬ道がうっすらでも可能性としてあったことさえ全くもって気づけずに、その道はいつの間にか閉ざされたようです。

毎度となく深夜から早朝にかけ、アベラワー、グレンゴイン、タリスカーなどのウイスキーを飲み、ウイスキーに飽きたらシャンディーガフで一息つき、フライドポテトやチキンをつまみながら、漫画の話や少女好きのオタク話などで店長含めスタッフとワイワイ盛り上がり楽しんでいた過去の自分を、もはや嘲笑してしまいます。

ひょっとして無理矢理にでも私が何かアクションを起こしていて、もし彼を今の奥さんから奪っていたとしたら、、、、!

今頃私は、来るべく素晴らしいアラビアンナイトの準備で日夜明け暮れていたかもしれないと思うと、妄想だけでも異国在住気分になりました。